武蔵野市/葵リリコ(会社員・26歳)
夏上手
夏休みもケータイみたいに繰り越せたらよかったのに、とここ何年か思っている。小学校のときの四十日、大学のときの二ヶ月の夏休みをちょっとでもいいから今欲しい。そしたらどこにでも行けるし、何でもできる。夏が特別な季節でなくなってしまったのは、大人になったからだと思っていた。
そんな私に、マモルくんをはじめとする四人はやさしく、けれど強烈にパンチを食らわせた。
彼らは念密に計画をたてて海へ行ったり、キャスターつきのバッグを持って海外へ行くわけではない。どちらかというと狭い行動範囲内で動きまわり、どこにでもあるようなささいなものに囲まれて夏を過ごす。けれど、とても楽しそうなのだ。
メールでなく電報。くどくどと話し合うのではなくテレビゲームでの一発勝負。それらにニヤニヤしながら読みすすめていった私はあることに気づいた。四人ともハプニングを楽しめるくらいタフで、しかも楽しむことに対して真面目なのだ。
もしかしたら、大人は子供よりも夏休みが得意なのかもしれない。
自由で、意思があり、冷静に一瞬一瞬を選択していく大人は、とても上手に夏休みを過ごせる。時間がないとか、そういうことが問題ではないのだ。
夏休みの過ごし方にお手本なんかないけれど、いつか四人のようなどこにもない粋な夏を作ることができたらいいなと思う。
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