書籍情報一覧

2014年11月 1

コジキ  古事記

  • 池澤 夏樹 訳
  • ISBN:978-4-309-72871-1
  • 発売日:2014.11.14
  • 定価2,200円(本体2,000円)
日本最古の文学作品を作家・池澤夏樹が新訳する。
原文の力のある文体を生かしたストレートで斬新な訳が特徴。読みやすさを追求し、工夫を凝らした組みと詳細な脚注を付け、画期的な池澤古事記の誕生!

解題=三浦佑之
解説=池澤夏樹
月報=内田樹、京極夏彦

帯装画=鴻池朋子

新訳にあたって 池澤夏樹

なにしろ日本で最初の文学作品だから、書いた人も勝手がわからない。ごちゃごちゃまぜこぜの中に、ものすごくチャーミングな神々やら英雄やら美女が次から次へと登場する。
もとの混乱した感じをどこまで残すか、その上でどうやって読みやすい今の日本語に移すか、翻訳は楽しい苦労だった。
池澤夏樹

ぼくがこれを選んだ理由 池澤夏樹

世界の創成と神々の誕生から国の形ができあがるまでを描く最初の日本文学。神話と歌謡と系図からなる錯綜のテクストを今の我々が読める形に。

2015年1月 23

ナカガミケンジ  中上健次

  • 中上 健次 著
  • ISBN:978-4-309-72893-3
  • 発売日:2015.01.14
  • 定価3,080円(本体2,800円)
母をモデルにした長編「鳳仙花」、『千年の愉楽』より「半蔵の鳥」他短編、故郷・紀州のルポ作品等を収録。欲望と悲しみ・憤りを辺境の地・熊野を舞台に描いた中上健次の小宇宙。

解説=池澤夏樹
参考資料・年譜=市川真人
月報=東浩紀・星野智幸

帯写真=蜷川実花

[目次]
鳳仙花
半蔵の鳥
ラプラタ綺譚
不死
勝浦
鬼の話

古座
紀伊大島

ぼくがこれを選んだ理由 池澤夏樹

わずか一世代前、人はこんなにも奔放に生きていた。恋情も憎悪も今よりずっと強烈に作用した。今の貧血の時代に中上健次は危ないかもしれないが、だからこそ彼が読まれるべきなのだ。彼の世界への入口として、奔放な女であり強い母であるフサの物語を供する。

2015年2月 13

ヒグチイチヨウタケクラベナツメソウセキモリオウガイ  樋口一葉 たけくらべ/夏目漱石/森鴎外

  • 川上 未映子 訳/夏目 漱石 著/森 鴎外 著
  • ISBN:978-4-309-72883-4
  • 発売日:2015.02.13
  • 定価3,190円(本体2,900円)
吉原の廓の隣町を舞台に、快活な十四歳の美少女・美登利と、内向的な少年・信如の淡い想いが交錯する、一葉「たけくらべ」(新訳・川上未映子)。
東大入学のために上京し、初めて出会う都会の自由な女性や友人に翻弄される青年を描いた、漱石「三四郎」。
謎めいた未亡人と関係を重ねる作家志望の文学青年・小泉純一が、芸術と恋愛の理想と現実の狭間で葛藤する、鷗外「青年」。
明治時代に新しい文学を切り開いた文豪三人による、青春小説の傑作三作を収録。

解題=紅野謙介
解説=池澤夏樹
月報=高橋源一郎、水村美苗

帯装画=浅野いにお


【収録作品】
樋口一葉「たけくらべ」(訳・川上未映子)
夏目漱石「三四郎」
森鴎外「青年」

新訳にあたって 川上未映子

一葉が今「たけくらべ」を書いたら絶対にこうなったにちがいないと信じきって&あの匂いあの話し声あの時間に持てるすべてを浸しきって、全力全愛でとりくむ所存です。

(photo:前田こずえ)
川上未映子

ぼくがこれを選んだ理由 池澤夏樹

明治になって社会の重心は若い人たちの方にシフトした。いきなり未来を預けられた青年たちの戸惑いを漱石は「三四郎」に書き、鷗外は「青年」に書いた。「たけくらべ」の色調は江戸期への郷愁だが、その一方でこれはモダニズムの都会小説でもある。

2015年3月 17

ホリタツオフクナガタケヒコナカムラシンイチロウ  堀辰雄/福永武彦/中村真一郎

  • 堀 辰雄 著/福永 武彦 著/中村 真一郎 著
  • ISBN:978-4-309-72887-2
  • 発売日:2015.03.12
  • 定価3,080円(本体2,800円)
西欧の近代文学と日本の古典を同列に置いて学んだ作家たち。
その果ての達成はしなやかな文体と哀れ深い内容となった。――池澤夏樹

西欧文学を学び、日本の古典に赴いた知の作家たち。
豊かな言葉をもって、巧みな手法で物語を紡ぐ

堀辰雄――「蜻蛉日記」を元に、美しくしなやかな文体で女性の繊細な心の内面を描いた「かげろうの日記」と「ほととぎす」。

福永武彦――放火殺人犯の男と敬虔なカトリックの女性が交互に独白する深淵」、正気と狂気の境に立つ女性の意識が綴られる「世界の終り」、古い運河の町で起こった悲劇的な出来事を扱った「廃市」。

中村真一郎――江戸時代の元政上人の生涯と作品を辿りながら、若い国際女性とその父を巡る旅をすることになった私……。時代や性、国を超えて、精神の型を共にする人々を描いた「雲のゆき来」。

解説=池澤夏樹
年譜=鈴木和子
月報=堀江敏幸、島本理生

帯装画=舛次崇

[目次]
堀辰雄
かげろうの日記 ほととぎす
福永武彦
深淵 世界の終り 廃市
中村真一郎
雲のゆき来
解説 池澤夏樹
年譜

ぼくがこれを選んだ理由 池澤夏樹

フランス文学を学んだ者がその富を創作に応用する。しかし彼らはフランス文学を学んだのではなく文学の普遍を学んだのだ。だから日本の古典を自在に用い、現代の日本を舞台にした巧緻な中篇を作り、また江戸期と今の京都を行き来する国際的な雰囲気の名作を書くことができた。

2015年4月 14

ミナカタクマグスヤナギタクニオオリクチシノブミヤモトツネイチ  南方熊楠/柳田國男/折口信夫/宮本常一

  • 南方 熊楠 著/柳田 国男 著/折口 信夫 著/宮本 常一 著
  • ISBN:978-4-309-72884-1
  • 発売日:2015.04.14
  • 定価3,190円(本体2,900円)
民俗学は文学のすぐ隣にいる。ではそこまで文学の領域としてしまおう。実際の話、境界はないのだ。(池澤夏樹)

解説=池澤夏樹
月報=恩田陸、坂口恭平
解題 鶴見太郎

帯装画=高木紗恵子

【目次】
南方熊楠
 神社合祀に関する意見

柳田國男
 海上の道
 根の国の話
 清光館哀史
 木綿以前の事
 何を着ていたか
 酒の飲みようの変遷
 最上川の歌仙

折口信夫
 死者の書
 妣が国へ・常世へ
 古代生活に見えた恋愛
 わが子・我が母
 沖縄を憶う
 声澄む春
 神 やぶれたまふ

宮本常一
 土佐源氏
 梶田富五郎翁
 ふだん着の婚礼──生活の記録1
 共稼ぎ──生活の記録2
 海女たち──生活の記録3
 出稼ぎと旅──世活の記録4
 見習い奉公──生活の記録5
 女工たち──生活の記録6
 行商──生活の記録7
 人身売買──生活の記録8
 月小屋と娘宿──生活の記録9
 女の相続──生活の記録10
 家出──生活の記録11
 戦後の女性──生活の記録12

 年譜

ぼくがこれを選んだ理由 池澤夏樹

民俗学は文学のすぐ隣にある。
南方熊楠の鎮守の森を擁護する論は今のエコロジーにつながっている。
柳田國男と宮本常一の論考を連ねると、正面から描かれた近代日本人の肖像が見えてくる。
折口信夫はもうそのまま文学。読んでいると古代の日本人とすぐにもハグできるような気持ちになる。

2015年5月 20

ヨシダケンイチ  吉田健一

  • 吉田 健一 著
  • ISBN:978-4-309-72890-2
  • 発売日:2015.05.14
  • 定価3,410円(本体3,100円)
批評という文学形式において近代日本が生んだ最も価値ある大作二つ。その傍らに巧緻な翻訳と機略の小説、洒脱のエッセーを配する。──池澤夏樹

【ぼくがこれを選んだ理由】
 評論は既成の作品の評価に終わるものではなく、一つの時代の文学を読み通すことによって次の時代の文学を用意する営為である。吉田健一は十八世紀までのヨーロッパ文学に戻ることで二十一世紀への日本文学の道を開いた。彼のおかげでぼくたちは小林秀雄から逃れることができた。(池澤夏樹)

「ある本が読めるか、読めないかを決めるのに一番確かな方法は、その本が繰り返して読めるかどうか験(ルビ:ため)して見ることである」──本を読み、文学に親しむ喜びを様々な視点から語りつくす長篇評論「文学の楽しみ」、ヨーロッパという文明が十八世紀に完成し、人間の自由を重んじるその精神が再生したのが十九世紀末だとする記念碑的著作「ヨオロッパの世紀末」の他、酒を愛する男が灘の技師と出会って体験する不思議な一夜を描く小説「酒宴」、若くして別れた母への思いを綴った「母について」、市井の旨(ルビ:うま)い店と料理をめぐるエッセー「食い倒れの都、大阪」など傑作19篇を厳選。

解説=池澤夏樹
解題=島内裕子
月報=松浦寿輝・柴崎友香

帯装画=林哲夫

【収録作品】
文学の楽しみ
ヨオロッパの世紀末
「ファニー・ヒル」訳者あとがき
ブライズヘッド再訪
ディラン・トオマス詩集
石川淳
母について
銀座界隈
田舎もの
汎水論
水の音
宴会
食い倒れの都、大阪
酒談義
ロンドン訪問記
酒宴
辰三の場合
お化け
シェイクスピア詩集 十四行詩抄

ぼくがこれを選んだ理由 池澤夏樹

評論は既成の作品の評価に終わるものではなく、一つの時代の文学を読み通すことによって次の時代の文学を用意する営為である。吉田健一は十八世紀までのヨーロッパ文学に戻ることで二十一世紀への日本文学の道を開いた。彼のおかげでぼくたちは小林秀雄から逃れることができた。

2015年6月 22

オオエケンザブロウ  大江健三郎

  • 大江 健三郎 著
  • ISBN:978-4-309-72892-6
  • 発売日:2015.06.12
  • 定価3,190円(本体2,900円)
この人の作品世界は広いのでなかなか全容が見えない。政治と理想、女性原理、辺境などの糸で織ったタペストリー。――池澤夏樹

[ぼくが選んだ理由]
戦争が終わって以来の日本人の精神の歩みにずっと沿って書いてきた作家。心やさしき伴奏者。高空の視点と地面すれすれの目線を自在に用いたパイロット。
選ぶのに迷うほどたくさんの作品の中から、女性原理を主軸にした長篇二つに短篇とエッセーで全体像を目指した。――池澤夏樹

死と再生、終末と救済を一貫して問い、闘い続ける圧倒的な大江文学。
女性原理を主軸にした長篇二篇に短篇とエッセーで全体像を提示する。
著者による加筆修訂。

[収録作品]
悲しみは人生の親戚――子どもの死に見舞われながら人生の事業に乗り出す女性を描いた長篇「人生の親戚」と汚染させた地球が舞台の近未来SF「治療塔」。
部屋に閉じ籠り<鳥たち>と暮らす青年を描く「鳥」、隣人となった「山の人」の自由への希求が市民たちを戦慄させる「狩猟で暮したわれらの先祖」。他に『ヒロシマ・ノート』より「人間の威厳について」、『私という小説家の作り方』より「ナラティブ・つまりいかに語るかの問題」。

解説=池澤夏樹
年譜=尾崎真理子
月報=中村文則・野崎歓

帯挿画=できやよい

[目次]
人生の親戚
治療塔

狩猟で暮したわれらの先祖
人生の威厳について
ナラティブ、つまりいかに語るかの問題

解説 池澤夏樹
年譜

ぼくがこれを選んだ理由 池澤夏樹

戦争が終わって以来の日本人の精神の歩みにずっと沿って書いてきた作家。心やさしき伴走者。高空の視点と地面すれすれの目線を自在に用いたパイロット。
選ぶのに迷うほどたくさんの作品の中から、女性原理を主軸にした中篇二つに短篇とエッセーで全体像を目指した。

2015年7月 2

コウヤクマンヨウシュウヒャクニンイッシュシンシンヒャクニンイッシュ  口訳万葉集/百人一首/新々百人一首

  • 折口 信夫 著/小池 昌代 訳/丸谷 才一 著
  • ISBN:978-4-309-72872-8
  • 発売日:2015.07.14
  • 定価2,860円(本体2,600円)
和歌の歴史を始まりから爛熟期まで九百年に亘って辿り、精選した歌に達意の訳と周到な註釈を添える。(池澤夏樹)

小池昌代の訳詩と鑑賞で和歌の世界へと誘う新訳「百人一首」を中心に、折口信夫の個性が光る「口訳万葉集」と丸谷才一の豊かな和歌の解釈を楽しむ「新々百人一首」をそれぞれ厳選し収録。

解題 口訳万葉集 岡野弘彦
解題 百人一首  渡部泰明
解説 池澤夏樹
月報 穂村弘 今日マチ子

帯作品 minä perhonen

新訳にあたって 小池昌代

百人一首は日本語の「井戸」だ。一首一首、こんなに短いのに、覗きこむと深い深い。手探りで求め続けると、その闇のような底から、烈しい「詩」の飛沫があがり我が額を打った。
koikemasayo

ぼくがこれを選んだ理由 池澤夏樹

そもそも和歌とは何か? 初学者のための手立てを考えた。
まずは「百人一首」。小池昌代の訳によって深い意味を教えてもらう。次に丸谷才一の「新々百人一首」で和歌のからくりを学ぶ。そうすれば折口信夫が訳した「万葉集」の含蓄がわかるようになる(はず)。

2015年8月 21

ヒノケイゾウカイコウタケシ  日野啓三/開高健

  • 日野 啓三 著/開高 健 著
  • ISBN:978-4-309-72891-9
  • 発売日:2015.08.10
  • 定価3,410円(本体3,100円)
現代の日本は他の国々に通じ、海の向こうの戦争や、世界観・宇宙観を共有するようになった。我々は今もこういう時代に生きている。(池澤夏樹)

解説 池澤夏樹
年譜 千野帽子
月報 奥泉光 角幡唯介

帯写真 Dayanita Singh

ぼくがこれを選んだ理由 池澤夏樹

太平洋戦争が大岡昇平を作ったように、ベトナム戦争がこの二人の作家を育てた。
二人の姿勢は大きく異なる。日野啓三はいつも目の前の事象の彼方を見ていた。だから現代の先を夢見ることができた。開高健は目の前の事象と自分の魂の間の戦いを細密にしつこく書いた。彼には出口はなかった。

2015年9月 8

ニホンリョウイキコンジャクモノガタリウジシュウイモノガタリホッシンシュウ  日本霊異記/今昔物語/宇治拾遺物語/発心集

  • 福永 武彦 訳/町田 康 訳/伊藤 比呂美 訳
  • ISBN:978-4-309-72878-0
  • 発売日:2015.09.11
  • 定価3,190円(本体2,900円)
人間のユーモアと機知とエロスに満ちた野蛮な魅力そのものが生き生きと語られる、「瘤取り爺」の原話等古来よりの説話100余篇を収録。「日本霊異記」「宇治拾遺物語」「発心集」は新訳で。

解題=小峯和明
解説=池澤夏樹
月報=高樹のぶ子・朝吹真理子

帯装画=しりあがり寿

新訳にあたって 町田康

翻訳しているといまはどうしたって見たり聞いたりすることのできない昔の人の声や顔が見えたり聞こえたりするようで楽しくてなりません。現代の日本語が過去に広がっていくような感覚もあります。この感じを届けたいと思います。
machida

新訳にあたって 伊藤比呂美

「日本霊異記」も「発心集」も読み始めたとき、そのエロさに辟易、いや、興奮して夢中になりました。エロくておもしろくてタメになり、その上仏教文学なんです。そこを伝えたい。

(photo: 吉原洋一)
ito

ぼくがこれを選んだ理由 池澤夏樹

説話文学は仏教を説きながら、実は人間のふるまいの放縦を語る。教義からの野放図な逸脱はむしろ哄笑を誘うだろう。