書籍情報一覧

2015年11月 11

コウショクイチダイオトコウゲツモノガタリツウゲンソウマガキシュンショクウメゴヨミ  好色一代男/雨月物語/通言総籬/春色梅児誉美

  • 島田 雅彦 訳/円城 塔 訳/いとう せいこう 訳/島本 理生 訳
  • ISBN:978-4-309-72881-0
  • 発売日:2015.11.12
  • 定価3,300円(本体3,000円)
江戸期は市民の時代であり、先取りされた近代であった。日本の小説は既にこの時期に完成していたのかもしれない。(池澤夏樹)

解題=佐藤至子
解説=池澤夏樹
月報=田中優子・宮部みゆき

帯装画=中村佑介

新訳にあたって 島田雅彦

美女や優男に添い寝してもらわなければ、ふざけた世の中を生き抜けない。
少子化対策にも有効な「好色一代男」。
shimadamasahiko

新訳にあたって 円城塔

秋成は同じことを何度も言う。全編通じて主題を変奏しながら重ねるように話を進める。まるで小説というものの足場を確認しながら、暗闇を夢中に進んでいるようである。
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新訳にあたって いとうせいこう

江戸のマルチプレイヤー山東京伝の机塚が浅草寺境内にある。長い間、ことあるごとに私はその塚の前で手を合わせてきた。尊敬する先人の作品を訳すのは震えるほどの光栄だ。
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新訳にあたって 島本理生

ダメすぎるのに憎めない色男と、女二人の深い情と嫉妬。艶やかな三角関係を書いた本作は、まさに江戸時代のエンタメ小説。恋愛の普遍性を伝える訳ができればと思います。

(photo: Hayata Daisuke)
shimamotorio

ぼくがこれを選んだ理由 池澤夏樹

江戸期は市民の時代であり、先取りされた近代であった。日本の小説は既にこの時期に完成していたのかもしれない。

2016年6月 12

マツオバショウオクノホソミチヨサブソンコバヤシイッサトクトクカセン  松尾芭蕉 おくのほそ道/与謝蕪村/小林一茶/とくとく歌仙

  • 松浦 寿輝 選・訳/辻原 登 選/長谷川 櫂 選/丸谷 才一 著/大岡 信 著/高橋 治 著
  • ISBN:978-4-309-72882-7
  • 発売日:2016.06.14
  • 定価2,860円(本体2,600円)
俳諧は自然と世間と人間を結ぶ。俳聖たちの句に連歌から発句を経て俳句に至る流れを辿り、現代の連歌として丸谷才一らの歌仙を収める。(池澤夏樹)

新訳にあたって 松浦寿輝

紀行、発句、連句の三分野にわたって、日本人の文学的感性を刷新し、かつ決定的に基礎づけてしまった言語的天才。その芭蕉に二一世紀の日本語で迫って、彼の詩文をどこまで「現代詩」として読み直しうるか。
matsuura

新訳にあたって 辻原登

私が芭蕉より蕪村が好きなところは、わびもさびもなく、求道者精神もないところ。そして女を愛したところ。萩原朔太郎は蕪村を郷愁の詩人と呼んだ。上田秋成はかながきの詩人(詩人とは漢詩人のこと)と呼んだ。とびっきりの現代詩人、蕪村に乾杯!
辻原

新訳にあたって 長谷川櫂

一茶は江戸時代半ばに出現した大衆社会の大俳人である。正岡子規より百年早く日本の近代がはじまっていた。子ども向け、ひねくれ者と侮られてきた一茶の再評価で俳句史は一変する。近現代俳句史は一茶を起点として書き換えられるだろう。
長谷川櫂氏写真

ぼくがこれを選んだ理由 池澤夏樹

俳諧は自然と世間と人間を結ぶ。俳聖たちの句に連歌から発句を経て俳句に至る流れを辿り、現代の連歌として丸谷才一らの歌仙を収める。

2015年2月 13

ヒグチイチヨウタケクラベナツメソウセキモリオウガイ  樋口一葉 たけくらべ/夏目漱石/森鴎外

  • 川上 未映子 訳/夏目 漱石 著/森 鴎外 著
  • ISBN:978-4-309-72883-4
  • 発売日:2015.02.13
  • 定価3,190円(本体2,900円)
吉原の廓の隣町を舞台に、快活な十四歳の美少女・美登利と、内向的な少年・信如の淡い想いが交錯する、一葉「たけくらべ」(新訳・川上未映子)。
東大入学のために上京し、初めて出会う都会の自由な女性や友人に翻弄される青年を描いた、漱石「三四郎」。
謎めいた未亡人と関係を重ねる作家志望の文学青年・小泉純一が、芸術と恋愛の理想と現実の狭間で葛藤する、鷗外「青年」。
明治時代に新しい文学を切り開いた文豪三人による、青春小説の傑作三作を収録。

解題=紅野謙介
解説=池澤夏樹
月報=高橋源一郎、水村美苗

帯装画=浅野いにお


【収録作品】
樋口一葉「たけくらべ」(訳・川上未映子)
夏目漱石「三四郎」
森鴎外「青年」

新訳にあたって 川上未映子

一葉が今「たけくらべ」を書いたら絶対にこうなったにちがいないと信じきって&あの匂いあの話し声あの時間に持てるすべてを浸しきって、全力全愛でとりくむ所存です。

(photo:前田こずえ)
川上未映子

ぼくがこれを選んだ理由 池澤夏樹

明治になって社会の重心は若い人たちの方にシフトした。いきなり未来を預けられた青年たちの戸惑いを漱石は「三四郎」に書き、鷗外は「青年」に書いた。「たけくらべ」の色調は江戸期への郷愁だが、その一方でこれはモダニズムの都会小説でもある。

2015年4月 14

ミナカタクマグスヤナギタクニオオリクチシノブミヤモトツネイチ  南方熊楠/柳田國男/折口信夫/宮本常一

  • 南方 熊楠 著/柳田 国男 著/折口 信夫 著/宮本 常一 著
  • ISBN:978-4-309-72884-1
  • 発売日:2015.04.14
  • 定価3,190円(本体2,900円)
民俗学は文学のすぐ隣にいる。ではそこまで文学の領域としてしまおう。実際の話、境界はないのだ。(池澤夏樹)

解説=池澤夏樹
月報=恩田陸、坂口恭平
解題 鶴見太郎

帯装画=高木紗恵子

【目次】
南方熊楠
 神社合祀に関する意見

柳田國男
 海上の道
 根の国の話
 清光館哀史
 木綿以前の事
 何を着ていたか
 酒の飲みようの変遷
 最上川の歌仙

折口信夫
 死者の書
 妣が国へ・常世へ
 古代生活に見えた恋愛
 わが子・我が母
 沖縄を憶う
 声澄む春
 神 やぶれたまふ

宮本常一
 土佐源氏
 梶田富五郎翁
 ふだん着の婚礼──生活の記録1
 共稼ぎ──生活の記録2
 海女たち──生活の記録3
 出稼ぎと旅──世活の記録4
 見習い奉公──生活の記録5
 女工たち──生活の記録6
 行商──生活の記録7
 人身売買──生活の記録8
 月小屋と娘宿──生活の記録9
 女の相続──生活の記録10
 家出──生活の記録11
 戦後の女性──生活の記録12

 年譜

ぼくがこれを選んだ理由 池澤夏樹

民俗学は文学のすぐ隣にある。
南方熊楠の鎮守の森を擁護する論は今のエコロジーにつながっている。
柳田國男と宮本常一の論考を連ねると、正面から描かれた近代日本人の肖像が見えてくる。
折口信夫はもうそのまま文学。読んでいると古代の日本人とすぐにもハグできるような気持ちになる。

2016年2月 15

タニザキジュンイチロウ  谷崎潤一郎

  • 谷崎 潤一郎 著
  • ISBN:978-4-309-72885-8
  • 発売日:2016.02.12
  • 定価3,190円(本体2,900円)
あまりに多才で多面的なこの作家の全容はとても一巻には収まらない。
それならば最も物語性に富んだものを。 ――池澤夏樹

室町時代の瀬戸内海、宝物をめぐって海賊や遊女、幻術使いたちが縦横無尽に躍動する幻の長篇エンタテインメント活劇「乱菊物語」。「妹背山婦女庭訓」「義経千本桜」「葛の葉」などの浄瑠璃や和歌と、母恋いを巧みに織り交ぜて綴る吉野探訪記「吉野葛」。女性への思慕を夢幻能の構図を用いて描く「蘆刈」。王朝文学に材を取った奇譚「小野篁妹に恋する事」、異国情緒に彩られる「西湖の月」、エッセイ「厠のいろいろ」を収録。巨人が紡いだ豊饒幻妖な物語たち。

*収録作品

乱菊物語
吉野葛
蘆刈
小野篁妹に恋する事
西湖の月
厠のいろいろ

解説=池澤夏樹
年譜=千葉俊二
月報=桐野夏生・皆川博子

帯装画=会田誠

ぼくがこれを選んだ理由 池澤夏樹

この作家はおのれの欲望を全開にして生きて書き続け、読者にも同じ姿勢を要求する。かぎりないおもしろさを求めた「乱菊物語」は未完ながら圧倒的な量感で迫るし、色好みという日本文学の伝統に母への思慕を添えた「吉野葛」と「蘆刈」はその完成度ゆえに豊かな読後感をもたらす。

2016年4月 16

ミヤザワケンジナカジマアツシ  宮沢賢治/中島敦

  • 宮沢 賢治 著/中島 敦 著
  • ISBN:978-4-309-72886-5
  • 発売日:2016.04.12
  • 定価3,190円(本体2,900円)
世界文学を自分の内部に抱え込んだ二人の創作者。詩において、童話において、小説とエッセーにおいて、奔放にあふれるエネルギー。(池澤夏樹)

ぼくがこれを選んだ理由 池澤夏樹

この二人は近代日本文学の双柱だが、共に創作の領域が広すぎて全容をまとめがたい。
宮沢賢治は死を間近にした「疾中」詩編を中心に詩を選び、これに短篇の佳作を配した。
中島敦では中国の古典に材を取ったものと南洋体験を生かしたものに、朝鮮の一光景を添える。

2015年3月 17

ホリタツオフクナガタケヒコナカムラシンイチロウ  堀辰雄/福永武彦/中村真一郎

  • 堀 辰雄 著/福永 武彦 著/中村 真一郎 著
  • ISBN:978-4-309-72887-2
  • 発売日:2015.03.12
  • 定価3,080円(本体2,800円)
西欧の近代文学と日本の古典を同列に置いて学んだ作家たち。
その果ての達成はしなやかな文体と哀れ深い内容となった。――池澤夏樹

西欧文学を学び、日本の古典に赴いた知の作家たち。
豊かな言葉をもって、巧みな手法で物語を紡ぐ

堀辰雄――「蜻蛉日記」を元に、美しくしなやかな文体で女性の繊細な心の内面を描いた「かげろうの日記」と「ほととぎす」。

福永武彦――放火殺人犯の男と敬虔なカトリックの女性が交互に独白する深淵」、正気と狂気の境に立つ女性の意識が綴られる「世界の終り」、古い運河の町で起こった悲劇的な出来事を扱った「廃市」。

中村真一郎――江戸時代の元政上人の生涯と作品を辿りながら、若い国際女性とその父を巡る旅をすることになった私……。時代や性、国を超えて、精神の型を共にする人々を描いた「雲のゆき来」。

解説=池澤夏樹
年譜=鈴木和子
月報=堀江敏幸、島本理生

帯装画=舛次崇

[目次]
堀辰雄
かげろうの日記 ほととぎす
福永武彦
深淵 世界の終り 廃市
中村真一郎
雲のゆき来
解説 池澤夏樹
年譜

ぼくがこれを選んだ理由 池澤夏樹

フランス文学を学んだ者がその富を創作に応用する。しかし彼らはフランス文学を学んだのではなく文学の普遍を学んだのだ。だから日本の古典を自在に用い、現代の日本を舞台にした巧緻な中篇を作り、また江戸期と今の京都を行き来する国際的な雰囲気の名作を書くことができた。

2016年7月 18

オオオカショウヘイ  大岡昇平

  • 大岡 昇平 著
  • ISBN:978-4-309-72888-9
  • 発売日:2016.07.12
  • 定価2,860円(本体2,600円)
戦争体験とスタンダールがこの作家を生んだ。昭和という時代の雰囲気と人間の本性を正確に伝える知性の文学。(池澤夏樹)

対照的な二組の夫婦と復員兵の愛をめぐる心理小説の傑作『武蔵野夫人』とその創作過程に関する「『武蔵野夫人』ノート」、南方での戦争体験を元にした思索的小説『俘虜記』から「捉まるまで」等三篇、ユーモア溢れるおとぎ話の続編「一寸法師後日譚」、花柳小説の佳品「黒髪」、神話と文学の起源をさぐる評論「母と妹と犯し」、昭和天皇重篤に際して心情を綴った「二極対立の時代を生き続けたいたわしさ」など、戦争と人間の真実を、理性と知性に基づいて希求した戦後文学最高峰の多面的な魅力を示す。

解説=池澤夏樹
月報=青山七恵・大林宣彦
帯装画=今日マチ子

ぼくがこれを選んだ理由 池澤夏樹

この人こそ文学の巨人である。
スタンダールに近代ヨーロッパ文学の骨法を学び、従軍と捕虜という体験で実人生の体験の富を得て、それを思うままに作品に生かした。
論理をまっすぐ通した端正な文体は日本語の散文の範として熟読されるべきだ。

2016年3月 19

イシカワジュンツジクニオマルヤサイイチ  石川淳/辻邦生/丸谷才一

  • 石川 淳 著/辻 邦生 著/丸谷 才一 著
  • ISBN:978-4-309-72889-6
  • 発売日:2016.03.12
  • 定価3,080円(本体2,800円)
歌と弓、魔と仏…めくるめく伝奇小説「紫苑物語」(石川)、信長の虚実を鮮やかに交錯させた「安土往還記」(辻)、山頭火を巡るミステリ「横しぐれ」(丸谷)等。モダニストたちの傑作群。

ぼくがこれを選んだ理由 池澤夏樹

石川淳は江戸文学から大量の富を自分の創作にこっそり持ち込んだ。辻邦生はパリで暮らすことでおのれの文学を構築した。丸谷才一はジョイスの『ユリシーズ』を丁寧に訳して、その文学観を自作に応用した。
文学とは継承と反抗であるというモダニズムの実践者たち。

2015年5月 20

ヨシダケンイチ  吉田健一

  • 吉田 健一 著
  • ISBN:978-4-309-72890-2
  • 発売日:2015.05.14
  • 定価3,410円(本体3,100円)
批評という文学形式において近代日本が生んだ最も価値ある大作二つ。その傍らに巧緻な翻訳と機略の小説、洒脱のエッセーを配する。──池澤夏樹

【ぼくがこれを選んだ理由】
 評論は既成の作品の評価に終わるものではなく、一つの時代の文学を読み通すことによって次の時代の文学を用意する営為である。吉田健一は十八世紀までのヨーロッパ文学に戻ることで二十一世紀への日本文学の道を開いた。彼のおかげでぼくたちは小林秀雄から逃れることができた。(池澤夏樹)

「ある本が読めるか、読めないかを決めるのに一番確かな方法は、その本が繰り返して読めるかどうか験(ルビ:ため)して見ることである」──本を読み、文学に親しむ喜びを様々な視点から語りつくす長篇評論「文学の楽しみ」、ヨーロッパという文明が十八世紀に完成し、人間の自由を重んじるその精神が再生したのが十九世紀末だとする記念碑的著作「ヨオロッパの世紀末」の他、酒を愛する男が灘の技師と出会って体験する不思議な一夜を描く小説「酒宴」、若くして別れた母への思いを綴った「母について」、市井の旨(ルビ:うま)い店と料理をめぐるエッセー「食い倒れの都、大阪」など傑作19篇を厳選。

解説=池澤夏樹
解題=島内裕子
月報=松浦寿輝・柴崎友香

帯装画=林哲夫

【収録作品】
文学の楽しみ
ヨオロッパの世紀末
「ファニー・ヒル」訳者あとがき
ブライズヘッド再訪
ディラン・トオマス詩集
石川淳
母について
銀座界隈
田舎もの
汎水論
水の音
宴会
食い倒れの都、大阪
酒談義
ロンドン訪問記
酒宴
辰三の場合
お化け
シェイクスピア詩集 十四行詩抄

ぼくがこれを選んだ理由 池澤夏樹

評論は既成の作品の評価に終わるものではなく、一つの時代の文学を読み通すことによって次の時代の文学を用意する営為である。吉田健一は十八世紀までのヨーロッパ文学に戻ることで二十一世紀への日本文学の道を開いた。彼のおかげでぼくたちは小林秀雄から逃れることができた。