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一青窈さん 特別インタヴュー

2009.05.21更新

『明日の言付け』刊行に寄せて 短期集中連載 (聞き手 南部真里)

第1回
「書けば書くほど自分が見えてきて、自分にフォーカスを置くと、普遍的な言葉が生まれる」

--本が出た経緯、なぜいまこういった本を出そうと思ったのかということから教えてください。
一青 音楽の仕事をしている上で、歌ができる背景というのはそれぞれの歌がもっているんですね。ライヴに来ていただく方にはMCなどで説明したりするんですけど、それがどんなに話しても伝わらない部分がある。本を書いたのは、そういった、歌が生まれたきっかけとか想いといったものをもっと他の人に伝えたかったし、それを書き出すことで自分自身を見直すこともできると思ったんです。それに、そもそも言葉を書くことってなんだろうっていうことを含めて、説明できたらいいだろうなと思いました。
なぜいまかと言われると、やっと書ける自信をそれなりに持てたからだろうと思います。
--それはご自分が歌でずっと表現してきて、ようやく言葉だけで表現するほど、なにかが蓄えられた、と。
一青 音楽に興味あるひとが音符を並べるように、写真好きが写真を撮るように、私は言葉が気になっているから(歌詞や詩を)書いていただけだと思っていたんですけど、それだけだろうかと改めて気づけるようになった。私が言葉を扱っているのはひょっとしたら混血っていう理由があるかもしれないし、音楽的に言葉を楽しんでいる部分もあるかもしれない。インタヴューやMCで話すうちにそのことに気づくようになった。気づいたのなら、もったいないから書いとこうかと(笑)。
--3章(「歌私集」)は歌詞とその背景を説明したエッセイで構成されていますが、その形態がきっかけになったということですか?
一青 ライヴでは散文詩みたいにポエトリー・リーディングをしながら歌に入っていくことが多かったんですよ。言葉遊び歌みたいに言葉を並べていって、歌にさらっと入ったときになにかの言葉だけがピックアップされて前の歌とリンクされて絵が浮かぶ……。歌詞とエッセイの組み合わせは、そういう感じでしゃべっていたMCの発展形です。自分にとってエッセイにまとめるというのは、ちゃんと本にまとめるということを意識していたからですね。もっと形式が自由だったら全体が散文詩になったかもしれない。
--一青さんのエッセイ、いいですね。
一青 もともとは新聞に載せていたエッセイ(「一章 一青思案の歳時記」)を河出さんに「よいですね」と言っていただいて、「そうかしら」っておだてられつつ「書こうかしら」って(笑)。読みたいと言ってくださる方がひとりでもいれば書こう、という気持ちですね。少しでも広げられるのであれば私の挑戦にもなるかと思ったのがきっかけです。
--テーマは最初には設けていなかった?
一青 なかったです。
--書き進めるうちに、または書き上がった後にテーマは見えましたか?
一青 これはスタートにすぎなくて、これから書いていくうちに見えていくのだと思います。私の実感として、音楽のプロモーションをしていたときに、「ハナミズキ」のことで、それを書いたきっかけとなった9.11について何回話しても、「へー」って驚かれたんです(笑)。「これ、300回ぐらい言ってます!」って思ったんですけど、知らないひとがいる限り伝えることが大切なんだろうと思いました。
--ご自分の体験が届かないことがもどかしい?
一青 「ハナミズキ」が好きなひとの幸せを願う歌であると思っていただいてもいいんです。それが9.11じゃなきゃいけないというのではなくて、意図したことがあるので、背景を知っていただいた方が歌の世界観は広がっていくと思うんです。
--これまでの曲の背景をもう一度振り返って、ご自分のなかに新たな発見はありました?
一青 なぞっているんだな、と思いました。昔から考えていることと骨子は変わっていなくて、いま拾っている言葉も書いている言葉も自分が大切だと思うことは昔考えていたこととリンクしているし、書けば書くほど自分が見えてきて、自分にフォーカスを置くと、普遍的な言葉が生まれるっていう実感がありました。私だけの思い出を書くことが、普遍的なことにつながっていくというのは、歌でも感じていたことですね。
昔は自分がひとからどう見られるかということを気にしていたんですよ。いろいろな目線でプロデューサーのように自分を見ていましたね。そうやって「一青窈」を作りながら、「ハナミズキ」だけの一青窈じゃないんですけど、というところまで行ったときに、自分が一青窈から抜けたくなっちゃって、「あれ、もっと私、違うところで昔は素直に詩書いてた」って思ったんです。痛い、つらい、うれしいことを思った通りに書くことで浄化されたり、誰かに共感してもらって気持ちが流れたり。
「ハナミズキ」の歌詞の背景にあることをMCで説明したときに、「なるほど、9.11からもうひとつ先の幸せを考えようとしたんだ!」とお客さんが思ってくれて、ひとつになった気がしたことがあるんですね。それは、音楽の作用とは別のことかもしれないけど、言葉で説明することでひとが心ふるわせたりできるのはすごくいいなと思いました。それに私の歌を知らないひとにも一青窈という人間が言葉をこれだけ好きで書いているということを知ってもらえたらいいなと思いました。それから、書いていてあらためて日本語が美しいことに気づきました。
--美しいというのは、響きですか、字面ですか、意味ですか?
一青 日本語を書いたり読んだりしていると、記号的に楽しむというのは別に「ああ私はアジア人なんだ」ということをすごく感じます。象形文字からこうなっているんだとか、語源を調べて「なるほどねー」ということがたくさんあります。特に中国語の繁体字なんて画数が多いから「どうなってるんだろう?」みたいな(笑)。私にとって言葉はいちいちおもしろいですね。

☆次回更新 5/28(水)予定☆

明日の言付け

日本文学

明日の言付け

一青 窈

一青窈、初の単行本は、詩(+歌詞)とエッセイで織りなす、一青窈コトバワールド。家族や愛しい人たちとの思い出、愛と恋、生と死……。伝えたい言葉のメッセージが詰まった珠玉の作品集。

  • 単行本 / 184頁
  • 2008.05.17発売
  • ISBN 978-4-309-01863-8

定価1,466円(本体1,333円)

×品切・重版未定

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