本当に大切な風景は、自分でつくりだすものなんだ……伝書鳩を育てる少年たちの感動の物語
鳥類の網膜は、紫外線にたいする感度を持っている。わたしたちには雌雄の区別がつかないカラスだが、カラスのメスは、ハデな紫の衣裳をまとっているオスをちゃんと見分けている。
だから、鳥の目で見てみようとするだけでも、ずいぶん景色が変わる。今やそれすら情報として得ることは可能だが、紫にかがやくカラスのオスにうっとりできるわけでもないから、わざわざ情報として体験することもない。ちょっと空想してみればすむ。
だが、その空想のしかたがわからない人がふえている。意識のなかに空間をつくるのは案外むずかしい。それは、床と壁と天井のある絵を描くことができない人が、びっくりするほど多いのと似ている。すこしだけ訓練が必要なのだ。
一度おぼえておけば、たぶん自転車乗りや水泳とおなじくらいには役立つだろう。
長野まゆみ
東京都生まれ。1988年『少年アリス』で第25回文藝賞を受賞しデビュー。 著書に『天体議会』『新世界(全5巻)』『若葉のころ』『カルトローレ』『改造版 少年アリス』『お菓子手帖』他多数。
両親の離婚により転校することになった音和(おとわ)。野川の近くで彼は、父と二人暮らしを始めることになった。新しい中学校で新聞部に入った音和は、仲間たちと伝書鳩を育て始める。そこで変わり者の教師・河井の言葉にいざなわれ、いつしか音和は、鳥の目で世界を見たいと願うようになり……。長野まゆみの最高傑作!