普段の営業活動は忘れて、独断と偏見の偏愛本紹介 ヤンキー、獣姦、変態的アイデア魔……「常識は人の数だけある」

ではここからはいよいよ個人の偏愛編に移って行きます。ではまず誰から行きましょうか?
J:
それではまず僕から。じゃじゃーん!  『豆本づくりのいろは』です。これ、豆本という数センチ大の小さい本の作り方を説明しているんですが、本当に書店で売っている本と同じ行程を経て小さい本を作っているんですよ。
I:
これは本当にすごい。
J:
今、流通している本の中で、豆本の作り方をきちんと説明しているのって意外と1、2冊くらいしかなくて、これはもうお手本になるような中身でデザインもかわいくて素敵。
なるほど。では次どうぞ。
T:
それじゃあ実用書つながりで、どーん。『木でつくる小さな食器』。
これは本当に作りたくなりますね。
T:
そうなんです! この本のハードコアさがよくわかるページがあって、必要な道具を紹介しているんですが(おもむろに後半のページをめくる)
(見た瞬間、即答で)ハードコアですね。万力まで使うんですね。
T:
それまではロハスな感じで本が構成されているのに、このページだけを見ると……。
ロハスで(同時に)マッチョじゃないと出来ないという感じが……。
T:
ロハスって本来マッチョなんですよ、やっぱり。
I:
じゃあハードコアな入門書つながりで紹介させてください! じゃーじゃん『ドゥルーズとガタリ 交差的評伝』。今年は分厚い本がたくさん出ましたが、やっぱりこれ。もう本がボロボロに。
N:
それ、読むのにどれくらいかかりました?
I:
とは言え、3分の2くらいで今休憩中(笑)。ちょうど『千のプラトー』を書き終えて評価され始めたくらいのところまで読んだ……。ただ、すごい読みやすい。
J:
みんなドゥルーズのすごさばかりを言い立てるけど、ガタリの重要性をきちんと紹介してるところがこの本の特徴なんですよね。
I:
そう。ガタリという人はすごく重要。超変態。例えばガタリが毎日10個くらい斬新なアイデアを出して、それをドゥルーズが哲学的に整理するみたいな形で共著が出来ていった経緯がよくわかる。むちゃくちゃ面白い。
Nさんどうですか?
N:
ハードコアなものは用意してないんですが……。
ハードコアはもういいです(笑)。
N:
私が今年最も感銘を受けた本はこれです。十三代目片岡仁左衛門著『芝居譚』。
それ、明らかに今年出た本じゃないですよね(笑)。
N:
発行は1992年。今の仁左様のお父さまの本です。何が素晴らしいかって、歌舞伎役者として偉大な方なんですが、加えて人間性が本当に美しい。お年を召すごとに謙虚になっていくところとか。あなたたちにも見習ってほしい。
I:
すみません(笑)。
見習いたいですね(笑)。次はどうでしょう?
J:
じゃじゃーん! 尾崎翠の『第七官界彷徨』です。初の単独文庫化。これは本当に素晴らしい小説で、今出ている「おすすめ文庫王国」で豊崎由美さんも絶賛されてました。話が相当ぶっ飛んでいて、苔の恋愛を研究してる次兄とか精神病院に勤めてる長兄とか、変な人たちに囲まれながら、なんだかよくわからない詩を書こうと奮闘する女の子の話。すごくエキセントリックであまり読んだことのないタイプ。妄想乙女な感じもすごく良い。
N:
その流れだと吉屋信子さんの『花物語』も好きだった。
T:
あれも良かったよね。じゃあその流れでこれも。『明治 大正 昭和 不良少女伝』!
N:
(携帯が鳴る)「もしもしー?」
一同
えー!
出るんですか……。
T:
Nさんはさて置き話に戻ると、例えば、昔、丸ビルのタイピストをやっているOLが、ハート団という不良グループの首領で、<ジャンダークのおきみ>と呼ばれていた時代があった。この本に載っている昔の新聞の文章が独特なんですよ。不良少女の説明のくだりをちょっと読むと「瓜実顔の容色佳とは行かねど万更南瓜様でもなく何処か梨の汁の甘みのある女振」という感じ。
その流れで行くと、『ヤンキー文化論序説』も持ち出せるのではないですか?
J:
そうですね。大衆文化の中でも、論壇からずっと無視に近い扱いを受けてきた文化が日本にはいろいろあって、そういうものにヤンキーという側面からいろいろと切り込んでいった本。この後、光文社新書の『ヤンキー進化論』が出たり、新聞で特集組まれたり、ヤンキー文化を論じることが、ちょっとしたブームになった印象を受けました。
T:
フェアをやって頂いた書店さんもいくつかありましたね。
J:
そう! でもこの本の残念だったところは、書店さんで置き場所を迷われてしまったこと。ヤンキー文化を研究した本を、ヤンキーが好んで読むような元ヤン芸人本の横に置いても、それほど興味を持たれないのではないか。あと書店で人文書担当の方に「これ人文なんですか?」と言われてしまったりして。とり上げているトピックも、矢沢永吉、ケータイ小説、小悪魔agehaというところがあって、サブカルだと思う人がいるのは不思議ではないけれど、もったいない気がした。執筆者の方たちも豪華なので見かけたらぜひ手にとってみて頂きたいです。
なるほど。
J:
あと、そういう書店での置き場所の難しさで言うと、chim↑pomの『なぜ広島の空をピカッとさせてはいけないのか』という本も印象に残ってます。
N:
chim↑pomは飛行機雲で広島の上空に「ピカッ」という字を書いたんだよね。なんでピカッとさせちゃいけないの?
J:
そこはまあ、いろいろ意見があるところで、それについての論考を、会田誠さんとか宇川直宏さんとかが書いたり、メンバー自身が振り返ったりしている。
彼らは、渋谷のセンター街にいるドブネズミを捕まえて、ピカチュウみたいな剥製にしたり、カラスの剥製を持って国会議事堂とか渋谷にカラス集めたり、面白いことをずっとやってきた人たちで、今回の件ではネット中心に叩かれまくっていましたが、その後謝罪を重ねる過程で被害者団体の人たちと仲良くなったりして。この本にはその団体の人たちとの対談も2つ収録されていて、それがまた良かったです。