まだまだ続くよ! 2009オレらの偏愛本

I:
じゃあ一押しのコレを。『新しいアナキズムの系譜学』です。これは世界中のストリートで起こっていることを思想的にまとめ上げ力強く肯定した本、といっても言いのかな。路上では、一見みんな好き勝手バラバラにやっているように見えるけど、その中から生まれる世界を肯定する力とか連帯の可能性とかを語っているんだよね。タイトルに「アナキズム」とかあるから一見手にとりにくいかもしれないけど、気にせず読んでみてほしいです。
他には?
J:
じゃあ次は『夏みかん酢つぱしいまさら純潔など』と『道の手帖 鈴木しづ子』です。鈴木しづ子というのは、句集を2作出して失踪してしまった人なんですが、長身で美人でダンサーで、黒人兵士と不倫したりしながら句を詠むという、すごい経歴の持ち主です。
『夏みかん~』は絶版の句集「春雷」と「指環」を1冊にして復刊したもの。感情にあふれた俳句ばかりで、僕みたいな俳句素人でも面白く読めるんです。例えば「ダンサーになろか凍夜の駅間歩く」、「好きなものは玻璃薔薇雨驛指春雷」、「コスモスなどやさしく吹けば死ねないよ 」等々。販促用に略歴と句が載っている豆本を作りました。
T:
豆本に載せる俳句として、各自好きな句を選ぼうと本に付箋を貼っていったら付箋だらけになった(笑)。
J:
勉強の出来ない受験生の参考書みたいなことに(笑)。
そう言えば、官能文庫レーベルの河出i文庫を担当されているNさんですが、今年1年を振り返ってどうでしたか?
N:
そうですね。今日は直近で仕掛けた「昭和のエロスフェア」を持ってきました。正直に言うと、これは前回の「人妻フェア」ほど売上速度が良くない。なぜか。真剣に考えた結果、わかったんだけど、聞きたい?
いや、まあ、どうぞ続けてください(笑)。
N:
テーマ性なんです。某書店さんの官能文庫の棚前でお客様の動向を観察してわかったんです。
不審者ですか(笑)。仕事中ですよね?
N:
そこでお客様は想像以上に真剣に本を選んでいたんです。タイトルとかオビとか目次とかを入念に見て。そこで思ったのは、求めているテーマのクオリティを見ているんだなってこと。「昭和のエロス」より「人妻」の方がやっぱテーマが具体的じゃないですか。
確かに。「人妻」人気って衰えないですしね。不倫願望をくすぐる(笑)。
N:
でも今は「人妻」だけじゃなく、エロのジャンルも細分化しているんですよ。だから、フェアでもある程度コアなテーマを提案することが大事かなと思います。
河出i文庫は毎月一冊出ているわけですが、ここ最近だとテーマ性の強いものと言えば何かありましたか?
N:
禁じられた性体験〔獣姦〕告白集』です!
不倫とかSMものであればテーマとして予想できそうですが、獣姦ってのは珍しいですよね。
N:
そうですね。私も最初は読者層をうまくイメージできなかったんですが、そんな時に仲の良い書店さんから100冊注文を頂いたんです。そして後日彼は上司に怒られた。「こんなもんドカ積みしてどうすんだ」と(笑)。でも彼は上司を説得してくれたんですよ。「常識は人の数だけありますから」と言って。そして、結果的に120冊を売り切ってくださった。私はそれが、書店さんと出版社の関係性としてとても嬉しかった。ていうかみんなこれ読んだ?
J:
……もっと大人になったら読んでみます(笑)。
N:
もしかしてまだ読んでないの?
J:
やっぱりちょっとその、アブノーマル過ぎるっていうか、なんか怖いみたいな……。
N:
その壁を越えたら何か見えるものがあるんじゃないの?
J:
それは、あるかもしれないですね……。
聖なる夜に……。他に何かある人はいますか?
T:
じゃあ獣姦つながりでトゥルニエの『フライデーあるいは太平洋の冥界』。この小説はアブノーマルの極北かなという気がしていて、というのも獣姦だと相手は動物で少なくとも生き物だけど、これは(相手が)地球なんですよ。
N:
地球とセックスするの?
T:
地球というか大地が相手で。地面に穴を開けて大地とセックスする。しかも後日その穴から花が咲くっていう。すごくハッピーな小説。
N:
え、ど、どういうこと? 大地に射精するんだよね? それで花が咲くの?
T:
そうです。
J:
なんで女性じゃなくて、大地なの?
T:
航海中に遭難した主人公が未開の地に流れ着いて、そこで土着の人と出会うんだけど、その対立混じりのふれあいの中で、だんだん文明社会の矛盾に気付いて土着の思想の方へ傾く。その極地として、大地とセックスする。名著なんですよ。
I:
名著と言えばこれも。『虫に追われて』。インドに虫を採りに行ったのに、虫を採ったことで捕まっちゃった虫ハンターの話。インドの牢獄がすごい大変な所で。超不潔で、トイレなんてもうそこら中がトイレみたいな感じで。料理も辛くて食べられなかったり。
この人は虫コレクターなんですか?
T:
そうです。昆虫標本商なので仕事で珍しい虫を採りに行ってる。
虫に追われて』っていうタイトルが良いですよね。本来追いかけるものなのに。
J:
あとはこれ。文庫の『「噂の眞相」 トップ屋稼業』。芸能人の乱交パーティとか森元首相の買春疑惑とか社会問題にまで発展した東京高検検事のスキャンダルとか、そういうかなり派手な記事をスクープした記者自らがその舞台裏を書いている。十年くらい前の出来事ばかりだから、逆に「へぇーこんなことあったんだ」っていう感覚で読めて、今読んでもかなり面白かったです。
T:
じゃあ次は『イー・イー・イー』。今年河出から出た本の中でも一番アヴァンギャルドな小説。閉塞感と不安を描いて……、
(遮って)さっきの『フライデーあるいは太平洋の冥界』の時のような端的な説明をお願いします!
T:
うーん……、イルカと熊がばんばん有名人を殺す話。
一同
T:
ショーン・ペンとかイライジャ・ウッドとか殺される。それでいて「幸せになりたい」とか言ってる。
自由ですね(笑)。
J:
ショーン・ペンかわいそう(笑)。
N:
著者はどんな人?
T:
アジア系アメリカ人で超高学歴フリーター。ブログがよく炎上するらしい。