単行本 コールド・スナップ

コールド・スナップ

  • コールド・スナップ

このリズム、息づかい、疾走感。トムとマイジョーは、たぶん魂の双子です。
――岸本佐知子

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内容紹介

クソったれのボケってなもんだ。神はどうして私にこんなことしたの? 暴力・痛み・性・死……サノバビッチとジャンキーまみれのファックライフ! 魂が共鳴する舞城初の翻訳書。解説=柴田元幸。

【エッセイ】
「死ねない夏」
岸本佐知子


 2004年、雑誌『ファウスト』に載った舞城王太郎訳のトム・ジョーンズ「コールド・スナップ」を読んだときのことは忘れられない。それはこんな風に始まる。

〈クソったれのボケってなもんだ。急な寒波(コールド・スナップ)がやってきたから俺はおらーっと家中の水道を流しっぱなしにする。〉

 おらーっと? クソったれのボケ? などと驚くひまもなく、舞城訳はどんどこ突っ走る。〈ああもうホント、俺はマジで鬱入ってるのだ〉〈でもそんで俺とこのクソ不凍液はどうしてくれんだよ?つまりさ、そいつは確かに気の毒だけど、じゃあ俺はどうなのよってことよ〉〈もうなんて言うか、俺はアフリカでもうまくやれないしこっちでもうまくやれないし、うまくやれることっつったらそれこそいよいよ死ぬしかないなって感じだった〉〈なんつう素晴らしいお医者様だ。俺に鎮痛剤をくれるってさ。んで俺はそいつが施し気分でいる間に前立腺のための抗生物質もいただくことにする。俺の左のがすごく重いからだ〉……。
「コールド・スナップ」の語り手は、アメリカで医師免許を取り上げられてアフリカに渡り、向こうでいろいろ無茶をやらかしてマラリアを患ったあげくアメリカに舞い戻ってきた躁鬱病の医者だ。がらっぱちでハイテンションでタフで虚無的で、でもどことなく聖人めいた神々しさも漂う。そんな主人公の顔と声がありありと立ち上がってくるような、すばらしいリズム、息づかい、疾走感だった。
 私がトム・ジョーンズの処女作『拳闘士の休息』を訳してから、当時ですでに八年ちかくが経っていた。ジョーンズの本は未訳の短編集があと2冊残っていたが、ずっと手をつけずにいたのは、たぶんこの作家のものは1冊しかできないだろうという気がしていたからだ。そういう作家というのは存在する。翻訳せずにいられないほど魅入られるのに、あまりシンクロしすぎると“あっち側”に行ってしまって戻ってこられなくなりそうな、そんな底無しのものを抱えた作家というのが。
 舞城さんが『拳闘士の休息』を愛読してくれているらしいということは何となく伝え聞いていたので、『ファウスト』にそれが載ったときは、ああとうとうしびれを切らして自分で訳しちゃったんだな、と思った。申し訳ない気持ちになると同時に、心が踊った。だって舞城王太郎×トム・ジョーンズは、それはもうすばらしいカップリングだったからだ。
 読んで直観的に思ったのは、これはふつうの翻訳と成り立ちがちがう、ということだった。原文の奥深くにダイブして日本語と一緒に浮上するというよりは、作品のよってきたる母胎のようなものに直接タップして、言語のちがう双子の作品として産まれなおしているような。それは訳し手が作家だからというよりは、たぶん訳し手と書き手が同じ魂を共有しているからこそ可能なのではないかと思った。だとしたら、これ以上幸福な翻訳があるだろうか。
 そのときからずっと、舞城さんがトム・ジョーンズの短編集を丸ごと訳してくれたらいいのに、やっちまいなよマイジョー! とひそかに思っていた。だからそれが現実となって、短編集『コールド・スナップ』がことし舞城訳で出ることになったのは本当にうれしい。『拳闘士の休息』が絶版になっていたあいだは「これが復刊されるまでは死ねない」と思っていたが、その願いがかなったいまの私は、『コールド・スナップ』が出る夏までは死ねない。
(初出=「文藝 2013夏季号」

目次・収録作品

◎収録作品
コールド・スナップ
スーパーマン、我が息子
ジャングルの奥のとても深い場所
流砂
ピックポケット
ウウ~ベイビーベイビー
ロケットファイア・レッド
私を愛する男が欲しい
ポットシャック
ダイナマイトハンズ

著者紹介

トム・ジョーンズ (ジョーンズ,トム)

1945年イリノイ州生まれ。アマチュア・ボクサーとして活躍した後、海兵隊に入隊。持病の癇癪のためベトナム戦争に行かずに除隊後、ワシントン大学を経てアイオワ大学創作科を卒業。その後コピーライター、用務員の職を経て作家になる。著書に『拳闘士の休息』などがある。

舞城 王太郎 (マイジョウ オウタロウ)

1973年福井県生まれ。2001年『煙か土か食い物』で第19回メフィスト賞を受賞してデビュー。2003年『阿修羅ガール』で第16回三島由紀夫賞を受賞。他の著書に『熊の場所』『好き好き大好き超愛してる。』『ディスコ探偵水曜日』『キミトピア』など。

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