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関連情報

内容紹介

池井戸花しす、28歳。誰にも嫌われないことにひっそり全力を注ぐ毎日。過去と現在を行き来しながら、彼女は自らの“今”を取り戻す。「祝福」がふりそそぐ、温もりの書き下ろし長編。

20冊目となる西加奈子の本はまさに著者新境地作品。
今この瞬間生きていることの温もりと切なさが、120%胸にしみわたる密度の濃さ。
著者にとってもトライアルでもあったこの渾身の書きおろし作品は、日常の生々しさをやわらかく包み込み、すぐ隣にある「奇跡」そのものに気付かされる、始まりのための物語 。

「みんな自分が好きなんだ。
でも、誰かを愛してるって、強い気持ちがあったら、
その人を傷つけることは怖くなくなるはずなんだ」

——奇跡が空を舞う、書きおろし長編。

【あらすじ】
 池井戸花しす、28才。たまたま行った産婦人科で出会った2歳年上のさなえと、2匹の猫と一緒に暮らしている。数年前に職場不倫をしていたデザイン事務所を辞めた花しすの今の仕事は、アダルトビデオへのモザイクがけ。「いつだってオチでいたい」と望み、周囲の人間に嫌われないよう受身の態度をとり、常に皆の「癒し」であろうとして、誰の感情も害さないことにひっそり全力を注ぐ毎日だった。

 一方で、花しすには誰にも言っていない趣味があった。電源の入ったICレコーダーを常にポケットにしのばせ、街の音や他人との会話を隠し録りして、そしてそれを寝る前にこっそり再生し、反芻すること。

 くり返し花しすの前に現れる謎の男性、新田人生。
 寝たきりのまま亡くなった父の母である祖母、そしてその祖母を介護していた母。
 モニター越しに性器を露にする見知らぬ外国人女優EVRYN。
 そして常に傍らに漂う「白いもの」……
 花しすが見つめ、他の誰かにいつも見つめられてきた自らの人生。
 その記憶を反芻するように、彼女は何度もICレコーダーを再生する。

 そんな時、レコーダーから突然声が響く。
「忘れんといてな」
 それは花しすの母が、かつて不意に花しすに向けてつぶやいた一言だった——


書評『西さん、女性器、モザイク、相俟って。泣きそうだにゃあ』
藤田貴大(マームとジプシー)


女性器について考え、想いを巡らせたときに、いつもぶち当たってしまう壁のようなものがあって、それはぼくが、男性だからかもしれないし、男性であるから、だから。女性器について、虚構性の高い、空想を。してしまうからかもしれなくて、だから。いつもぶち当たってしまう壁のようなものが、あるのだけれど。この壁について、どう言語化すればいいのか、わからずにいるから、だから。たぶん、男性であるから、だから。憧れもあるのだろう、女性器を見たくなるのだ。触りたくなるのだ。いやでも、だから。ここで書かれているのは。つまり、西さんの『ふる』で描かれているのは、ぼくの。いつもぶち当たる壁について、への回答であるような気がしてならない。それが過去と現在の往復で、揺さぶられ。炙り出されているから。しかも、ひょいひょいと。軽々と。言われてしまった気がして。ぽかんと、穴を開けられたような、感触があった。でもその感触も“モザイク”をかけられる。たしかに掴みかけた感触に“モザイク”を。花しすは、かけているようだった。これを受けて、ぼくは。初めてアダルトビデオを見たときのことを、思い出してみる必要があった。初めて見たアダルトビデオには、金髪の白人女性が出演していて。何故だか、それには“モザイク”が、かかっていなかった。悪い先輩たちが、もう見飽きたような、ぼろぼろのVHSが。ぼくの手元に渡り歩いてきて。それを恐る恐る、見てみると。そこには、金髪の白人女性が出演していて。何故だか、それには“モザイク”が、かかっていなかった。のだ。奇しくも、ぼくはそこで。初めて女性器を見た。あのときの動悸が忘れられない。でも、あれもだ。あれも、なんとも形容しがたい。あれ、だったんだ。すこし、ふわりと。宙に浮いてしまった。みたいな。いや、たしかに、画面のなかには、女性器が映っていて。そしてぼくの男性器は、たしかに勃起していた。でもなんだか、その、たしかである幾つかのことを。ぼくは受け入れたくないような気がしていた。あの、たしかなことから、目を背けたり。そして“モザイク”を。かけたくなったりする。あの、なんとも形容しがたい。ふわりと。宙に浮いてしまった。みたいな。それを、書こうとか。普通しないよな。それを、書こうとか。西さんはしたんだな。とうとう。と。そういや、西さんと初めてお会いして、話したとき。
猫の性処理について話して、盛り上がったっけ。なんて。そんなことも、思い出しちゃって。だから『ふる』の最後の、くだり。祖母の性器の、くだり。ぼくは、いろんな。思い出すこと、それぞれを。過去と現在を、たしかなことにする作業と、さらにはそれに“モザイク”をかけようとする、弱さ。やら、なんやらが、相俟って。そして、そうゆう、西さんの優しさみたいなものに触れた気がして。嬉しくなってしまいました。それは、ぼくが。ぼくたちが、いま。必要としている、体温に。近いような気がしたからだ。
「文藝」2013年春号より)

著者紹介

西 加奈子 (ニシ カナコ)

77年生まれ。 2004年に『あおい』でデビュー。 07年『通天閣』で織田作之助賞、 13年『ふくわらい』で河合隼雄物語賞、15年に『サラバ!』で直木賞を受賞。 他著書に『ふる』『i』『夜が明ける』等

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読者の声

うさぎ さん/49歳
生きていること、出会うこと、覚えていること、忘れてしまうこと、女であること。そんなことがふわふわと漂う祝福された小説。「生きていること」への強烈な喜びがあったなぁ。そして、花しすの「優しくありたい」と「波風を立てたくない」という気持ち、それを「卑怯だ」と思う気持ちがわかる、わかる!現在と過去を行き来するお話運び、会社での同僚との会話も楽しかったです。
おざわ さん/35歳
誰にでも存在するであろう心の闇。それさえも共存していく『あたたかさ』が満載な物語だと思う。 読み終わるのがもったいなすぎる後半。 いろんな事を考えました。母とか、ばあちゃんとか。前を向いていく事の大切さを改めて教えてもらった気がします。
yu-a さん/25歳
西先生の描く小説内の日常は、いつもどこか特徴的で、少し普通の範疇から外れたような世界に思える。今作「ふる」の主人公、花しすの勤める会社だって、AV制作会社だ。なかなかのイロモノである。
それなのにするすると読めて、しかもそれを普通じゃないと思わせる事無く物語の中にのめり込むことが出来るのは、花しすやその他の登場人物が、読み手のどこかに必ず当てはまるからだ。
誰にでもある弱さ、そしてそれを「ええねんで」と許容するおおらかさ、最後には全てを飲み込み成長することのできる可能性、そんな前向きな希望を内包した「ふる」という小説は、読後に温かくやわらかい気持ちと、少しだけさびしいような気持ちをもたらしてくれる。
それは自分より先に、花しすが何かを乗り越え、人として美しく成長したからなのかも知れない。
ねこ さん/33歳
この本に出会えたことが“奇跡”だと思えるほどたくさんの言葉がわたしに降ってきました。
忘れたくないことを忘れないようにしていくことは本当は忘れていくことなんだと花しすが教えてくれました。
たくさんの人と関わりながらわたしも前に進みたい。
hane さん/21歳
花しすの「忘れたくない」という感情にとても共感しました。人との関係とかその時の感情とか、記憶って思ってるよりずっと曖昧で、それを失うのが怖い。読むと何かがすっきりします。言葉では言い表せないけど、ふわふわしてて、でも少しすっきりする一冊。

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