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  1. コミック

少女が夢見た戦争は、恐怖とお菓子の匂いがした。
第44回日本漫画家協会賞(カーツーン部門)大賞受賞!
『cocoon』に並ぶ今日マチ子の新たなる代表作

コミック(書籍扱い)

イチゴセンソウ

いちご戦争

今日 マチ子

受賞
日本漫画家協会賞大賞カーツーン部門

単行本 B6変形 ● 128ページ
ISBN:978-4-309-27509-3 ● Cコード:0079
発売日:2014.07.25

定価1,540円(本体1,400円)

×品切

  • 〈新世代の叙情作家〉今日マチ子が描く、お菓子と女の子の幻想戦記。いちごミルク海峡決戦、諜報ずきんちゃん、マシュマロ処理班……。鮮烈に描かれる、オールカラー戦争ファンタジー!

    日本漫画家協会賞大賞受賞!

    《今日マチ子さん受賞メッセージ》
    ※このメッセージは、2015年6月19日に行われた日本漫画家協会賞贈賞式に、
     今日マチ子さんが寄せた受賞の言葉です。
     式では、女優の青柳いづみさんによって代読されました。


    こんにちは、今日マチ子です
    この度は、わたしの「いちご戦争」に、
    日本漫画家協会賞 カーツーン部門大賞をいただき
    大変嬉しく思っております。
    漫画でもなく、絵本と夢日記のあいだのようなこの作品は、どこにも置き場がないよ
    うな気持ちになることもありました。
    「カーツーン」という言葉に、いま、ようやくぴったりと居場所をみつけられたよう
    な感じです。

    戦争と少女を描くことを続けてきましたが、
    わたしは、そもそも、戦争を知りません。
    それなのに、なぜ描くのか、問い続けてきました。
    たぶん、それは、もう言葉を持たない一人の少女のためなのではないかと思っていま
    す。
    代弁するのではなく、
    生きている私たちが、戦争を自由に語らうこと、夢想することで
    時間の底で黙りこくっていた死者が、
    思わず言葉を発する瞬間が
    おしゃべりに加わる瞬間が
    やってくるのではないかと思うのです。

    そうそう、いま、話しているのは
    舞台俳優の青柳いづみさんです。今日マチ子の作品のモデルをつとめたり、
    この夏、舞台化を果たした「cocoon」という作品の主人公を演じたりしています。
    ここにいないわたし、というこの状況は
    なんとなく、死者の気持ちに近いような気がしています。
    華やかな受賞式を思い浮かべながら、地中に深く埋まっているような— 
    でも
    ともすると、賑やかさにつられて、青柳さんの口から飛び出していってしまいそうな。

    かつて生きていた少女も、ここに生きる人も、これからやってくる少女も、
    すべてを迎え入れることのできる、
    漫画という空間に感謝しています。

    中学の教室で、年老いた先生が、戦争の体験を語っていたことを思い出します。
    あの空間。
    耳を傾ける者はわずかで、
    少女たちのおしゃべりが最後には先生を打ち負かし、戦争の話は終わってしまった。
    残酷だと思います。でも、そんなものなのかもしれない。
    あのおしゃべりのなかに、わたしは書くべきものを見つけたい。

    彼女たちのさざめきのなか、
    きょうの受賞の喜びを胸に、ひきつづき、漫画の可能性を追いかけていきたいと思い
    ます。

    (2015年6月19日 今日マチ子)


    *  *  *  *  *  *  

    今日マチ子さん『いちご戦争』刊行記念インタビュー
    聞き手:編集部

    --------「いちご戦争」はもともと今日さんのブログ「今日マチ子のセンネン画報」で公開されている作品です。始めたきっかけは?

    同じブログで「センネン画報」という1ページ漫画のシリーズを、長い間書いていたのですが、そのフォーマット内ではちょっとやりきってしまったなと感じたときに、新しく始めたのが「いちご戦争」でした。
    「センネン画報」は一枚ずつ紙に描くという通常のスタイルでしたが、「いちご戦争」は黒のモレスキンの手帳に描き溜めたものを、スキャンしてブログにアップしていました。
    もともと、モレスキンの小型手帳が気に入っていて、スケッチブック代わりにして何かしたい、という目論見もありました。これまでずっと自分はアナログで描いてきたけれども、今後はデジタルに移行するだろうなと当時から考えていたので、最後のアナログ時代をどう遺すかという意味でも、モレスキンを使ってみたんです。
    スケッチブックは立体的で、手触りも重さもある「モノ」ですよね。表に描いた絵が裏に写ってしまうことなども、アナログならでは。デジタルは一元的でぺらぺらしているから、「裏」がない。

    --------いつから描きはじめたんですか?

    モレスキンに描きはじめたのは、2010年に刊行した『cocoon』の舞台化が決まりかけた、2012年だったと思います。自分の捉える「戦争」を、あまり身構えずに、思想ではなくイメージで書き留めておきたかったんです。

    --------「いちご戦争」は、「センネン画報」ともまた異なる、新しい表現のように感じました。何かきっかけやモデルになった、他の作品はあったんですか?

    特にありません。漫画ですと、例えば24ページなら24ページと、最初から決まったページ数のためにネームを切って、起承転結の構成を決めますが、そういう作り方とは違うものを、仕事ではない場所でやってみたかったんです。
    「センネン画報」は、同じ1ページでの表現でも、コマ割りも「漫画」の形でしたが、「いちご戦争」はただただ印象的な場面をひたすら書き留めて、漫画ではない単位にしてみたかったんです。といっても、デッサンとかスケッチではなくて、イメージの最小単位みたいなものというか。

    --------今回は、2年間以上描き続けた、膨大な数の中からセレクトして書籍化されました。どういう基準で選ばれたのですか?

    編集者がセレクトしました。その並べ方がよかったので変更することもなく、わりとその部分はお任せでした。先ほども言ったように、私の中の「いちご戦争」は、自由な、言い換えればわりと無責任な(笑)イメージの連なりだったんです。ただ、そのイメージの並べ方によって、物語が生まれる。その物語は、誰か私以外の、他の人の手を借りることによってできると思っていたんです。
    本のサイズに関しては、モレスキンの実際のサイズに近づけたいという思いがありました。手帳と同じように、紙の角が丸くなっているのがお気に入りです。

    --------ひめゆり部隊と思しき少女たちを描いた『cocoon』、ヒトラーとアンネを思わせるふたりの邂逅を描いた『アノネ、』、そして今回の『いちご戦争』と、「戦争」をテーマにした作品が続いています。「戦争」を描き続けているモチベーションは?

    『cocoon』を描き始めたときは、「戦争」自体に興味があったというよりも、ただ、かつてその場所で死んでしまった子たちがいたという事実が創作のきっかけでした。感覚としては、自分のクラスメートが死んでしまい、私だけが生き残っていて、その思い出を書き起こしてみよう、というようなことに近かった。
    『アノネ、』も正義感にかられた告発というよりは、アンネ・フランクやヒトラーの、表舞台には出なかった心の中を掘り返したいという気持ちで描いていました。

    前二作は、被害者側からの目線で描いたものですが、今回の『いちご戦争』は攻撃する女子を、加害者側から描きたかったんです。彼女たちのその攻撃の先は明確なものではなくて、夢の中みたいな感じで、何なのかわからないものに向かっている。それは無意味なことである一方で、楽しそうな感じもする。そういうものにしたかった。

    これまで、いつの時代も必ず戦争は起こっていますよね。そう考えると、戦争は自分たちの生活に地続きの出来事なんだろうと思うんです。この先、私が戦争に行ったり、加担してしまったりすることもあるかもしれない。そういう、いざとなると一般の大多数となって流される方に与してしまうであろう、自分の弱さを描きたかったというのがあります。でもその誰もが持つだろう弱さは、「悪」ではないとも、私は思っていて、そこも正直に描きたかったんです。

    戦争を作品化することに対して、経験や知識を持っていないと語ってはいけない、というような風潮もあると思うんですが、戦争を考えるのに資格はいらないと思うんです。普通の生活の地続きとしての戦争を描くことで、戦争を考えていく垣根を低くしたいと思いました。

    -------「戦争」と「お菓子」と一見相反するものを題材にした理由はありますか?

    戦争とお菓子はよく似ているなあと思って。どちらも、根本的には人にとってなくてもいい無意味なものなのに、あらがえない大きな魅力もあって。ついつい手を出してしまう……その二つを組み合わせました。

著者

今日 マチ子 (キョウ マチコ)

漫画家。1ページ漫画ブログを書籍化した初単行本『センネン画報』(2008)で注目を浴びる。著作に『cocoon』『アノネ、』『みつあみの神様』『U』他多数。2014年、手塚治虫文化賞新生賞を受賞。

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