不屈の英国キッチンメイド
料理人を経て、売れっ子作家へ。

単行本

エイコクメイドマーガレットノカイソウ

英国メイド マーガレットの回想

マーガレット・パウエル

村上 リコ

受賞
全国学校図書館協議会選定図書

単行本 46 ● 240ページ
ISBN:978-4-309-20582-3 ● Cコード:0098
発売日:2011.12.26

定価1,836円(本体1,700円)

○在庫あり

  • 15歳でキッチンメイドとなったマーガレット。雇い主たちの仕打ちに涙し、ある時は楽しみながらコックに出世する。この自伝でベストセラー作家に。カバー絵は「エマ」森薫氏の描き下ろし!

    1920年代の英国。海辺の街の職人の家で健やかに育った15歳のマーガレットは、貧しさから教師になる夢をあきらめ、裕福な家のキッチンメイドになった。そこに待っていたものは、ハードな長時間労働と、根深い階級格差だった。
     大量の鍋を洗い、手間隙かけて料理の下ごしらえをし、活きのよすぎるロブスターと格闘し、女主人の理不尽な仕打ちに耐える日々。失敗を繰り返しながら、彼女は強くなる。昼なお暗い地下のキッチンに押し込められて、一日15時間の家事労働に携わってはいても、胸に秘めた「野望」が消えることはない。
     20世紀初頭の英国における、メイドやコックの隠された生活が、活き活きと綴られる。最下層のキッチンメイドからコックへ、そして六十歳を超えてのち本書を出版し、一躍売れっ子作家の道へ。知性とユーモアと批判精神に満ちた、類まれなる英国女性の一代記。

    【本文より抜粋】
    ●第2章「初めてのメイド勤め」より
     その朝はいつもよりちょっと仕事が遅れ気味で、配達員が持ってきた新聞を玄関先で受け取った。それを玄関ホールの飾りテーブルに置きにいこうとしたとき、ちょうどクライズデール夫人が階段を降りてきた。そこで私は彼女に近づき、新聞を手渡した。彼女は何か、下等な動物でも見るような目で私を見た。ひと言も発さず、ただそこに立ちつくして、まるで私みたいな生き物が歩いて息をしていることを信じられないとでもいった様子で見つめている。「何がいけなかったの?」と私は思った。メイドのキャップはかぶってるし、エプロンもつけている、黒いストッキングと靴もちゃんと履いている。何が悪かったのか考えも及ばなかった。やがてようやく彼女が口を開いた。
    「ラングリー。決して、決して、たとえどんな場合でも、素手で私に何か渡したりしないでちょうだい。いつも銀の盆で渡すこと。それくらい知っていて当たり前でしょう。お前の母親も使用人だったのに、教わらなかったのかしら?」
     こんなひどいことってあるかしら。涙がほほをポロポロとこぼれ落ちた。銀の盆を使わなければ、直接ものを受け取りたくもないほど、下等な存在と思われるなんて。

    ●第4章「コックの遍歴」より
     ある朝のこと、私はバーナード夫人の朝食に燻製ニシン(キッパー)を出した。彼女はいつもベッドで朝食をとるけれど、その日は手をつけず、メイドのエセルがトレイをさげてきた。戻ってきたニシンを、私はシンクの下のゴミバケツに放り込んだ。けれどそのあと、バーナード氏が降りてきてこう言ったのだ。
    「コック、奥さんは今晩のディナーでは、塩味の口直し(セイヴォリー)に、朝食で残した燻製ニシンをご所望だ」
     私の心に暗雲がたちこめた。もう捨ててしまいましたとは言えない。言えば夫妻の一日を台無しにしてしまう。なぜ私がニシンごときで誰かの一日を台無しにしなくちゃいけないのか。そこで私は言った。
    「はい、かしこまりました旦那様。問題はございません」
     彼が階上へと去るが早いか、私はゴミバケツに突進して燻製ニシンを釣り上げた。

著者

マーガレット・パウエル (パウエル,マーガレット)

1907-84。15歳のときにキッチンメイドになり、裕福な家庭の住み込み家事使用人として働く。1931年に結婚。3人の息子を育てあげた。1968年、自伝(本書)を出版し、一躍ベストセラー作家となる。

村上 リコ (ムラカミ リコ)

文筆・翻訳家。東京外語大卒、千葉県生まれ。編集プロダクション勤務を経て二〇〇三年よりフリー。著書に『図説 英国メイドの日常』『図説 英国執事』他、翻訳にヴィタ・サックヴィル=ウェスト『エドワーディアンズ 英国貴族の日々』マーガレット・パウエル『英国メイド マーガレットの回想』(河出書房新社)シャーン・エヴァンズ『図説 メイドと執事の文化誌』(原書房)A・M・ニコル『怪物執事』(太田出版)など。

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