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編集担当が語る『キング・オブ・スタイル:衣装が語るマイケル・ジャクソン の世界』

 今でも多くのファンを惹きつけてやまないマイケル・ジャクソン=MJ。キング・オ
ブ・ポップ、MJに関しては多くの著作があるが、本書はなによりユニークな一冊だ。
サブタイトル「衣装が語るMJの世界」が本書を一言で説明している。
なぜなら......
MJをキング・オブ・ポップたらしめていた3つの要素、それは「ダンス」「ヴィジュ
アル」そして「イメージ」。MJの衣装デザイナーであり、本書の著者マイケル・ブッ
シュとパートナーであるトンプキンスの仕事とは、MJが抱く「自分をどう見せ、表現
するか」という強いこだわりを実現させることだった。 
つまり......
「MJの衣装を知れば、MJが目指した総合芸術と彼の人間性についての理解が深ま
る」。
しかも、衣装を通してMJを読み解く試みは、世界でも本書のみ! 唯一である。
では、ショート・フィルムやDVDの映像でも検証できる、本書エピソードの一部をこ
こに披露しよう!

1>「スムーズ・クリミナル」SFの衣装に隠されていた工夫。
"あの動き"をライヴで実現した装置。
  MJはスピンをするときにネクタイがヘリコプターの羽のようにグルッと回るのが
好きだったが、衣装の白いネクタイが思い通りの動きをせず、撮影を中断した。トン
プキンスのアイディアで、ネクタイの先に25セント硬貨を縫い付けて無事解決し
た。(遠心法、ですね!)

  MJは常に自分を大きく、より高く見せたり、ダンスをする手脚の動きをアピール
したりすることにこだわった。ラインストーン・グローブは最適な小道具だったが、
「スムーズ・クリミナル」のイメージには合わず使えない。そこでブッシュは、指先
に白いテープを巻くことを考えつき、以来、MJの定番となった。
  最大の見せ場ゼロ・グラビティの元ネタは、MJの大好きな映画『オズの魔法使
い』のブリキ男のパフォーマンス。撮影ではワイヤーを使ったが、MJはライヴでの実
現を熱望。トンプキンスが研究を重ねて、リーン・シューズを開発した。MJは特許を
取得したが、実は3人連名で申請してくれていた。

2>「ダーティ・ダイアナ」PVの衣装は、元もとは著者・ブッシュの私服だった!
  撮影当初は黒革のジャケットを着用していたが、強風を使った演出効果が得られ
なかった。ストレスを感じたMJは休憩時間中に、ブッシュが着ていたトンプキンスお
手製の白いシャツに目を留め「そのシャツが僕にウィンクしてるんだけど」。
マイケルのひとことで、その場で衣装チェンジとなった。

3>ハイキックができるリーバイス
  MJが愛用していた黒いリーバイス501。ファンは「MJも僕たちと同じデニムを
はいている」と親近感を抱いたはずだが、MJと同じハイキックはできなかったはず
だ。実は、すべてトンプキンス&ブッシュによる1本数千ドルのカスタム・メイド
で、501を分解し内股の縫い目に伸縮性に優れたスパンデックスが仕込まれていた。

4>1987年の東京公演を契機に、ビリー・ジーン・グローブに大きな変化が! 
  バッド・ツアー東京公演3夜目の終演後にビデオを確認したMJは、グローブのラ
インストーンとマイクがこすれるノイズに気づいた。それまでMJは、左右どちらにグ
ローブをはめるかは当日の気分で決め、手の両面にびっしりとラインストーンを施す
ことにこだわっていた。だが、この一件以来、ライヴの音を優先してグローブをはめ
るのは必ず右手と決め、ステージ用グローブの手のひら側のラインストーンをすべて
はずし、撮影用の全面にストーンを施したグローブと使い分けるようになった。

5>『This is It』の主任デザイナーへの不満ーMJの納棺の衣装担当の依頼
  本書では "主任デザイナー"とされ名前は記されていないが、ザルディ・ゴコのこ
と(レディ・ガガ等の衣装や、シルク・ドゥ・ソレイユ『Michael Jackson: One』の
衣装も手がけている)。サブとなったトンプキンス&ブッシュとしては大いに不満
だったはずだ。「踊りにくい衣装に不満だったMJはThis is Itの衣装をすべてトンプキ
ンス&ブッシュ作に変えようと、密かに画策していた」と書かれているが、真相は不
明。ただし、着付け係となったブッシュがちゃんと現場に立ち会っていたのは事実。
映画『This is It』では、リハーサル会場の隅に立つ姿が映っている。ブッシュについ
ては賛否両論あるところだが、昔気質の仕事ぶりは評価されていたのだろう。ジャク
ソン家が納棺時の衣装=MJの最後の衣装を依頼したのはトンプキンス&ブッシュであった。

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他にもまだまだたくさんの秘話、ストーリー、ドラマが盛りだくさんだが、このあた
りでもう、みなさんは読みたくてうずうずしてきたことだろう。
そして、本書はマイケルのファンのみならず、舞台衣装や演出に興味がある読者に
は、興味のつきないものだといえる。つまり「創作すること」、「クリエイティビ
ティについての本」だからだ。より素晴らしいステージを作るにはどうするか。どう
やってMJの世界観を創っていくか――これは、1人の天才と、その天才のために尽く
した「創り手」たちが、衣装を通じて、わたしたちに見せてくれた魔法の数々のドラ
マを記録した本なのだ。

編集担当

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【関連書籍】
マイケル・ブッシュ 小林美幸訳『キング・オブ・スタイル:衣装が語るマイケル・

マイケル・ジャクソン 田中康夫訳『ムーンウォーク』※マイケル・ジャクソン唯一
の自伝!

(初出:『かわくらメルマガ』vol.81 「編集担当が語る『キング・オブ・スタイル:衣装が語るマイケル・ジャクソンの世界』」)