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2016年2月の記事一覧

『スイッチを押すとき』は2005年に単行本が発売されて以来、累計で80万部を突破
し、デビュー作『リアル鬼ごっこ』に次ぐ著者代表作の一つです。
発表後すぐに大きな反響を呼び、映画、連続ドラマ、舞台にと、メディアミックスも
進みました。
今回、大幅改稿した河出版文庫刊行にあたり、編集担当から内容紹介をさせていただ
きます。

  *

舞台は2030年の日本。少子化による人口減少に歯止めがかからず、さらにそこへ自殺
の増加が追い打ちをかけて国力が低下し、社会問題になっていた。特に未来の日本を
担う若年層の自殺者はあとを絶たず、政府は迅速な対応を迫られる。

そんな中、事態改善の切り札として、21世紀の幕開けとともに施行されたのが「青少
年自殺抑制プロジェクト」だった。人権保護団体からの猛烈な抗議が巻き起こるが、
政府は強引にスタートさせる。名前こそ「自殺の抑制」となっているが、その実態は
逆に、特定の子供たちをあえて自殺に追い込むという戦慄のものだった。

国民の中から無作為に選ばれた子供たちの体に、スイッチひとつで心臓を停止させる
機会を埋め込み隔離。さまざまなストレスを与えることで自殺させ、その過程をモニ
ターする。その心理データを利用して、その他大勢の国民の自殺抑制に役立てるのだ
という。30年近くが経ち、プロジェクトは驚きの成果を上げていく。政府は自信を深
め、プロジェクトはさらなる続行が決定していた。

そんな中、八王子にある子供の隔離施設で監視員として働いていた南洋平は、上層部
から横浜支部への異動を命じられる。

ほとんどの子供たちが収監からわずかな期間で自殺してゆく中で、4人の子供たちが長
期間生き続けているという。横浜支部は彼らを収監する、全国でも特別な施設だっ
た。彼らの監視役に任命された洋平は、そこで17歳にまで成長した子供たちと出会っ
た。

過酷な環境にもかかわらず明るさを失わない高宮真紗美。
鋭い眼光ながら、仲間を気遣うムードメーカーの新庄亮太。
足が不自由で車椅子だが、天性の画才を持つ小暮君明。
そしてプロジェクトによって心を閉ざす池田了。

死ぬまで続く監禁にもかかわらず、子供たちは支えあいながら必死に生きている。
しかし、あえて提供される肉親や親しい人たちの「死」の報告に、4人の心は少しずつ
消耗していた。

当初は一切の感情を見せず、冷徹に「監視」に徹する洋平だったが、子供たちとの交
流が重なるうちに少しずつ変化していく。そして彼らへの「思い」が決壊した時、洋
平は大きな決心を実行に移すのだが......

親しい人たちから隔離され、生きることにどんな意味があるのか。
絶望の中、わずかに生まれた希望は、どんな結果を招くのか。
子供たちの自由、そして希望を叶えようともがく中で、洋平自身の出自に隠された、
驚愕の真実が明かされてゆく――

  *

2001年のデビューから数年、ホラー作品を精力的に執筆していた山田さんですが、
『スイッチを押すとき』以前と以後では大きくその魅力が変化していきます。

怖い話であることに変わりはないですが、それまでのスピード感あふれる魅力に比
べ、『スイッチを押すとき』では登場人物一人ひとりの個性が繊細に描かれ、ドラマ
チックな展開を支えます。葛藤の蓄積から来る感情の爆発、他人の気持ちに寄り添い
共感する様子などは、それまでの作品になかった絶妙の「間」「静寂さ」を生み出
し、結果として、多くの読者に支持される感動大作になりました。

また、文庫初収録の短篇「魔子」は、執筆自体は2010年の末であるものの、初期の魅
力を濃密に感じさせてくれる珠玉のホラー作品です。

山田悠介作品の魅力が凝縮した、新旧二つの作品を、ぜひ河出文庫『スイッチを押す
とき 他一篇』でお楽しみください!

(編集担当N)

*  *  *  *  *  *  *  *  *  *
山田悠介『スイッチを押すとき 他一篇』(河出文庫)


(初出:『かわくらメルマガ』vol.95 編集担当が語る、山田悠介『スイッチを押すとき』&羽田圭介『隠し事』)