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2016年1月の記事一覧


★増田寛也『地方消滅』(中公新書)
   
今年始めに偶然読みました。空港などでよく売れていたのが理解できます。
首都圏に一極集中することの社会的リスクはかなり高く、その見事な象徴が北海道で
あり札幌。
将来「東京圏」に住むのが怖くなるショッキングな1冊でした。
(総務部 K:当社の管理業務を担当。)

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★小峯 隆生・筑波大学ネットコミュニティ研究グループ『「炎上」と「拡散」の考現

レビュー:「ネットで炎上」という表現、いまや身近なものですが、実際の渦中に立
ち会える(あるいは立ち会ってしまう)ことは非常にまれです。意外と知らないその
現場で、具体的にはいったい何が起こっているのか―この研究チームは Twitter や2
ちゃんねるの書き込みを、人力で(!)ひとつひとつ読み、そのコメントを定量化・
数式化していきます。いくつかのパターンを俯瞰した時に明らかになる、意外なほど
クラシカルな、その傾向とは?いくら技術が進歩しようと、人間はやっぱり人間なの
だなあと感嘆せずにはいられない、とても興味深い内容でした。論文らしくない、軽
妙な語り口も読みやすくて好印象です。
(営業部 K:書籍の配本担当です。主に実用書と、文芸書の一部を担当していま
す。)

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★清水浩史『秘島図鑑』(河出書房新社)

自分が担当した本を挙げさせていただきます。島国・日本なのに「島」のことって何
も知らないな...というところから始まった企画でしたが、秘められた「秘島」の歴史
と「ポツン」とした佇まいに魅了され、気が付けば行けない島々に思いを馳せる「大
人の冒険の書」になってました。楽しんで制作した本なので、その思いが伝われば嬉
しいな。
(編集部 I:自分の知りたいこと、読者に楽しんでもらえることをモットーに本を編んでおります。)

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★ナショナル ジオグラフィック 編『ナショジオが行ってみた 究極の洞窟』(日経ナ
ショナルジオグラフィック社)

日本三大洞窟はもちろん、遠くヴェトナムの鍾乳洞も訪れた私がお勧めするのは、想
像を絶するスケールの地下世界に圧倒される写真集です。ちなみに私のお気に入りは
福島の入水洞(Cコース:要予約)です。ろうそくを手に真っ暗闇を探検できます。

【もう1冊】
★サイモン・シン 青木薫 訳『フェルマーの最終定理』(新潮文庫)

だいぶ昔のベストセラーですが、今読んでももちろん面白い。数学者の人物伝、人間
ドラマとしても楽しめます。
数学の本なんて難しいのかとおもいきや、読み始めると止まらず、トイレにも持ち込
んでしまうこと請け合いです。
(編集部 K:鳥が好きな翻訳書の編集者。)

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★谷川直子『四月は少しつめたくて』(河出書房新社)

これから先、四月になったら読みたくなるで賞を贈りたいです。
「ことば」に傷ついたことがある人みんなに読んでほしい、
とても優しくて、とても厳しい小説。
(広報課 S:営業部で企画広報&書店さんへの営業してます。)

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社)

水・粉・砂糖・塩・顆粒酵母を混ぜて、10分こねて、1~2時間寝かせて、鍋で焼
く。それだけでホカホカのパンができる。意外とうまい。慣れると速い。僕のDIY的後
半生の幕開けを告げる、道標としての一冊。MAY THE KOBO BE WITH YOU!
(営業部 O:生協や美術館などの営業担当してます。)

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★岸政彦『断片的なものの社会学』(朝日出版社)

2014年6月、東京都議会の本会議において、ある女性議員に対し「産めないのか」と
いうヤジが飛び、後日大きな問題となった。この模様は録画されており、テレビやラ
ジオで繰り返し流れた。このヤジはもちろん言語道断の酷いものなのだが、それ以上
に気になったのは、ヤジを飛ばされた女性議員がその時そのヤジに対して笑ったよう
に見えたことだった。私の見聞きする限りにおいてヤジを問題視する人は多かった
が、その女性議員が笑ったことに対して時間をかけて何かを語ろうとした人はいな
かった。ただ一人をのぞいて。

その一人が、朝日出版社のサイトで「断片的なものの社会学」という連載を執筆して
いた岸政彦という人だった。その時の記事は今でも読むことができる。

この記事を読んでから、女性議員がヤジに対して笑顔を見せたことをまた考えた。当
たり前のことだけれど、彼女がなぜ笑顔を見せたかについて、正確に知ることは出来
ない。それでも彼女の心のうちを考える。今でも時々考える。それで良いのだと思っ
た。

どんな人間も、その人間なりに毎日を生きて、生きた場所には物語が生まれる。
でもその日々は、その人にとってあまりに自明で、本人ですらそこにある物語に気づ
かない。ましてやそれが他人の目に触れることはあまりない。
そんな誰かの物語の断片を掬いとることができたこの本は、控えめに言って小さな奇
跡の結晶だとしか思えない。100年後も読み継がれてほしい、震えるほどの名著。
(営業部 T:わらび餅が好きです。おすすめは京都・洛叉庵です。)

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★坂東三津五郎 著 長谷部浩 編『坂東三津五郎 歌舞伎の愉しみ』(岩波現代文庫)

2月に亡くなった十代目坂東三津五郎丈による歌舞伎案内。6月に文庫化。ご本人の
経験を交えて、演目や見どころ、歌舞伎の今昔、役者の苦労や喜びなどが、非常に分
かりやすく語られる。芸談と解説書が一体となった稀有の本。
(編集部 I)

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★ミシェル・ウエルベック 大塚桃訳『服従』(河出書房新社)

フランス社会の不安感を見事に織り込んだ痛烈な作品。
筆力が巧みで、細部がいちいち面白く読めるのはウエルベックならでは。とはいえ、
とても対岸の火事とは思えないところが恐ろしい。同じウエルベックの『プラット
フォーム』も結末は衝撃的。
(編集部 T:不本意ながらフランスが遠のいている編集者。)

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★ルイス・ダートネル 東郷えりか訳『この世界が消えたあとの 科学文明のつくり
かた』(河出書房新社)

「もし世界が崩壊したあとに、もう一度文明を作るなら?」のキャッチで大反響だっ
たこの本。大量の技術と知見で今の暮らしが維持されていることにめまいがするは
ず。心から文明が維持されることを望みます。本当に崩壊したときは、この本だけで
は記述があっさりすぎてそのまま役立てるのは難しいでしょうが、必要な技術がなに
か、は書かれているので、文明的な我々はこの本を指南書にそれぞれの専門家を見つ
け力を合わせて生き残ることができるのでは。さらりと読むにはやや固い語り口です
が、それも説明書ぽくて良いです。

【もう1冊】
★あんこ『自家製酵母で作る毎日食べたいパンとおやつ』(河出書房新社)

パンのレシピですが、本質は酵母マニアの酵母との語らいの記録です。専業主婦が独
学で、レーズンやりんご、干し柿、いちご、トマトなど、こんなものから!と驚かさ
れるほど、なんでも酵母に生まれ変わらせる。その姿はまるで、森を歩き材料を探し
妙薬を作った魔女。経験と自然との語らいで得た法則ですが、人からみると魔法のよ
うです。
教科書で学んだのではなく、一から自分でやってみて得た知識だからか、その情熱に
はうっすら狂気すら感じます。自分で撮影したという写真の美しさも愛ゆえかと。


【もう1冊】
★ジョッシュ・ウェイツキン 吉田俊太郎 訳『習得への情熱―チェスから武術へ―
(みすず書房)

著者は映画『ボビー・フィッシャーを探して』のモデルにもなったチェスの神童。有
名になったことでの雑音から逃れる精神修養で太極拳を始めたところ、そちらでも国
際大会制覇レベルまで到達。2分野を修めた著者だからこそ気づいた法則は「優れた
競技者になるための内的技法は競技の種類によらず驚くほど共通している」こと。非
常に感覚的な気付きなのだけど、ロジカルに落としこむ思考力と説明力で学習法のビ
ジネス書としても使えるレベルまでまとめているのがすごい。つまり文章力も天才。
なにかの第一人者が、なにやってもすごいのはこういうことだったのかー! 
読後、すっかり啓発されたのはいいけれど各所に「○○を無意識に行えるレベルまで
到達し」とあるのに気づいてぐったり。天才になれるかは、何万時間費やしても平気
な、努力を厭わないものに出会えるかどうかが鍵のよう。彼の習得の過程を追体験し
ているかのような抜群に体感的な文章を楽しめただけでも面白い出会いでした。
(営業部 N:狂気を感じる本に惹かれます。会社では広報、大人の塗り絵事業担
当。)

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★山本義隆『私の1960年代』(金曜日)

著者は言わずと知れた元東大全共闘代表。弊社刊『民主主義ってなんだ?』の
SEALDsの活動も執筆の動機になったとのこと。昭和史のおさらい、科学技術の研究
現場と政治や国家との関係など私にとっては目からウロコの1冊でした。
(営業部 S:最近は訳あってよく大学研究室を回って営業しています。)

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学のために』(青土社)

社会学界隈で仕事をさせてもらっている編集者としては、あまりにも羨ましい企画。
見田宗介という「圏」の広がりの端っこに入れてもらいたくなること請け合い。本書
で気持ちを高めて、『定本 見田宗介著作集』へ。
(編集部 F:見田先生の授業、ちゃんと聞いておけば今頃......。)

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★李珍景 影本剛訳『不穏なるものの存在論』(インパクト出版会)

「取るにたらないもの」「粗末で卑しいもの」の特異性から哲学し、「迷惑をかけ
る」ことを肯定するという読む者を勇気づける驚くべき思考の書です。かつて独裁政
権に抗して捕らわれたこともある著者は、実は世界で一番大事なドゥルージアンのひ
とり。
(編集部 A:人文、カルチャーなど編集。)

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★アビー・バーンスタイン/矢口誠 訳『メイキング・オブ・マッドマックス 怒りのデス・ロード』(玄光社)

この夏「ヒャッハーー」と謎の雄叫びをあげた人も多いのでは。全人類(たぶん)に
エンタテイメントがもたらす最大級の感動の刻印を残した映画「マッド・マックス」
のメイキング本。あの謎の乗り物の仕組みが!愛と勇気と哀しみに満ち溢れた登場人
物たちの意外な背景が!読めば映画を観たくなる→観れば読みたくなる→観たくなる
→読む→観る→読→観の永久運動。この冬はBlu-rayとみかんとこの本で血湧き肉躍る
年末年始をお過ごしになることをオススメします。
(編集部 S:昼は悠久の書物に思いを馳せ、夜は国会前に佇む1年でした。)

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医者や薬は多くの人を救ってきた。しかし、新薬開発には多額のカネが動き、製薬会
社、厚労省、大学病院の癒着の温床になりやすいのも事実。少なくない薬害の犠牲者
を抹殺しようとする医療業界のウラを暴く、医療を信じる一般人こそ読むべき書。 
(営業本部 O)

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★ゲーリー・L・スチュワート/スーザン・ムスタファ 高月園子 訳『殺人鬼ゾディ

とある方面からはカリスマ視すらされる殺人鬼ゾディアック。"生き別れた実子"とさ
れる著者が、その正体に迫りゆく様は流石に緊迫感も執拗さも破格。人は時々人を殺
すし、たまたま人に殺されることもある、そんな逃れがたい現実に戦慄しつつも、ど
うにも面白くて読む手が止まらない一冊です。
(営業部 N:営業部で書類の壁に囲まれています。年末片づけます)

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★安倍夜郎『深夜食堂 14・15巻』(小学館)

新宿の、材料があれば何でも作って出してくれる深夜食堂で、いろんな人が出会う、
関係しまくりの物語。マスターのさりげないお言葉も魅力的。常連さんもいい味。女
性は滝田ゆうさんの絵柄にも似てたりして、まろやかないい線です。寝しなに読んで
いやされてます。
(編集部 N)

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(勁草書房)

「子どもを産んで国に貢献」することを公に、ためらいなく求めてしまう国に絶望し
か感じなくなった頃、出会った一冊。では、この国は、出産に至らない中絶と避妊を
どう管理してきたのか、まず明かされるのは、他国ではとっくの昔に廃れた母体への
危険が大きい「掻爬」手術が、日本ではいまだ主流をなしている驚きの実態!!! 
センセーショナルなレポートに止まらず、国内外の歴史研究を基に「生殖コントロー
ル技術」や、法と倫理の関係に丁寧に迫る画期的な本書。議論への一歩目を踏み出せ
るという希望をももらえた、女性男性ともに必読の書です。
(編集部 M)

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★村上春樹『職業としての小説家』(スイッチパブリッシング)

小説家になるとはどういうことか。しっかり村上さんが答えている。
さらにどうやって世界で読者を獲得するに至ったか、そこもかなり詳細に報告してく
れている。
マックス・ヴェーバーの「職業としての政治」を読んだ時と同じ?知的興奮は味わ
えます。
(編集部 T:翻訳書を主に担当しています)

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★須賀しのぶ『革命前夜』(文藝春秋)

本書は歴史ロマンであり、音楽ものであり、青春小説であり、そして最高のエンタメ
です!!主人公・眞山に大きな転機をもたらす天才ヴァイオリニストのヴェンツェル
が最高にくそ野郎かつクールで、彼の虜になること間違いなしです。
(営業部 Y:営業部で書店課にいます)

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山本七平『『空気』の研究』(文春文庫)

『空気読めよ!』の方の空気ですよ。読み返してみてやはりオモロイなと。
醸し出された『空気』に我々日本人がいかに支配されてしまうか、
また、『空気』に『水をさす』ことの難しさについて痛感させられます。
日本人論の名著。特に若い方に読んでもらいたい。
(総務部 I:会社の片隅で、ひねもすお金の勘定ばかりしていますが、実は数字が大の
苦手。)

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中村のん『70'HARAJUKU』(小学館)

高橋靖子さんのアシスタントも務めたスタイリスト中村のんさんが、友人の写真家た
ち(錚々たる面々!)に呼びかけ「(まだ何者になったわけでもない)ただの若者」
として青春を過ごした70年代原宿のストリートスナップを集め編んだ貴重な1冊。そ
の後有名になった人もそうでない人も平たく並んだページから、その時代の若者たち
の物凄い熱量が伝わってきます!
(編集部 T:普段は実用書&シルバー川柳など担当してます。)

(初出:『かわくらメルマガ』vol.91 創業130周年記念 かわくらセミナー「〈日本〉を考える」第1回 山本理顕 ×大澤真幸×木村草太 開催)
いつもメルマガを読んでくださっているみなさん、こんにちは。『昨夜のカレー、
明日のパン』(通称『カレーパン』)の担当編集です。以前、このメルマガで「通称
『カレーパン』ができるまで」と、木皿泉さんのドキュメンタリー+ドラマのDVD
ブック「『木皿泉 しあわせのカタチ DVDブック』ができるまで」をお届けしまし
た。読んでくださった方、本当にありがとうございます。本日は、文庫化記念とし
て、『カレーパン』刊行後の歩みをお届け致します。ジュンク堂書店三宮店の楠本杏
子さんから届いた、とてもあたたかい『カレーパン』の感想(後半に掲載)とともに、
お読みいただけたら嬉しいです。

小説『カレーパン』が刊行されたのは2013年4月、今から3年弱前の春のこと
でした。本作の著者、木皿泉さんは、二人でひとつの作品を作る夫婦脚本家として、
テレビドラマ「すいか」や「野ブタ。をプロデュース」「Q10」など、見ている人の
心にそっと寄り添い、赦し、ずっとそばにいてくれる名作を産み出してこられまし
た。

お二人が初めて挑戦した小説である『カレーパン』も同様。これは、7年前に夫・
一樹を25歳という若さで亡くした嫁・テツコと、一樹の父・ギフが、同じ家でとも
に暮らしながら、ゆるゆるとその死を受け入れていく物語です。テツコとギフのほか
にも、親戚や隣人、今の恋人に会社の同僚、偶然知り合った小学生など、実に多様な
人物が登場するのですが、彼らはそれぞれに何かしらの喪失を抱えて生きています。
なんとか脱して前進しようとする人もいれば、どうしてもそこから逃れられない人も
いる。そんな人々を、「それでもいいんだよ、無理して頑張らなくても大丈夫」と大
きな赦しで包み込み、そっと寄り添ってくれる、この木皿さんの処女作。発売前か
ら、「『カレーパン』と木皿さんを応援したい!」という思いを持ったさまざまな書
店さんが「木皿泉応援団」を結成してくださり、これまで木皿ドラマのファンだった
方々はもちろんのこと、木皿さんを知らない方々にも届くようにと、独自のアイデア
で店頭を盛り上げてくださいました。

結果、たくさんの方々に手に取っていただくことができたのです。刊行後、全国から
たくさんの熱のこもった感想が木皿さんのもとへ送られてきたことからも、『カレー
パン』が多くの人の心に深く深く届いたんだ、と実感しました。

それだけではありません。『カレーパン』はその後、全国の書店員さんが本気で売り
たい本を選ぶ「本屋大賞」の第2位にも輝き、ますます多くの方の手に、心に届けら
れました。その本屋大賞のパーティー会場で、全国から集まった書店員さんに囲まれ
て、手作りの『カレーパン』POP(店頭に置かれるハガキ大の宣伝用カードのこと)
を次々と手渡された木皿さんが、「ほんとうに書いてよかった」と笑顔でおっしゃ
ったあの瞬間を、私は絶対に忘れられません。

さらに、『カレーパン』はNHKのBSプレミアムで連続ドラマ化もされ(もちろ
ん、脚本は木皿さんご自身が手掛けられました!)、物語はまた違うカタチでさまざ
まな方々のもとへと羽ばたいていきました。

そんな本作『カレーパン』が、2016年1月、遂に文庫になりました。なんと、
本編の「男子会」のサイドストーリーとも言える、書き下ろし短編「ひっつき虫」を
収録! さらに巻末解説には、単行本『カレーパン』発売直前と昨年6月の2回、木
皿さん宅でインタビューをされ、お二人の作品に深く迫った作家・重松清さんにご執
筆いただいた、的確ながらとてもあたたかい木皿論も入り、自信を持ってお届けでき
る一冊に仕上がりました。人生の節目や幸せな時はもちろん、苦しく悲しい思いを抱
えた時にも、きっとずっと寄り添ってくれる作品です。暖冬とは言え、今日、都心で
も初雪を観測した寒いこの頃。木皿さんや『カレーパン』のファンの方も、まだ読ん
でないわ、という方も、ほっこりとあたたかい『カレーパン』を食べて(読んで)、
あたたまっていただければ嬉しいです。

(編集担当)

【過去のかわくらメルマガ掲載記事】

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【特別掲載】
「昨夜のカレー、明日のパンを再び読んで」
ジュンク堂書店三宮店 楠本杏子

2年半ぶりに再読し、この小説の持つ効力にハッとしました。
もちろん最初に読んだ時も、コミカルな会話とあたたかな登場人物に惹かれ、ああ良
い作品に出会ったと感じたのだけれど、今回はそれだけでない感情がむくむくと湧き
上がってきました。
最初の2ページ目のギフの台詞「人って、言葉が欲しい時あるだろう?」。この一言
が、今の私自身に驚くくらいストンと入ってきたのでした。
この小説は、主人公のテツコと亡くなった夫である一樹をめぐる人々の日常が編まれ
ています。テツコも、テツコの義父のギフも、みなその過去を胸に今を生きている。
なのに不思議と誰も湿っぽくならず、むしろ明るさまで感じるのは、著者である木皿
さんが、この小説に与えた言葉のおかげなんじゃないかなと思います。テンポ良く繰
り広げられる会話のあとで、すっと心の中に寄り添ってくれる言葉がここにある。そ
れは私たちの日常でもきっとそうで、ふとした時に誰かからもらうささやかな言葉
が、自分の心にいつまでも残り支えてくれることって、あると思うんです。そのこと
に、気づかされました。全編を通して飄々とした佇まいのギフはこんな台詞も言いま
す「人は変わってゆくんだよ。それは、とても過酷なことだと思う。でもね、でも同
時に、そのことだけが人を救ってくれるのよ」。最愛の妻を亡くし、息子を亡くした
ギフのこの言葉のように、抱えている悲しみや憂いから一歩踏み出す瞬間が描かれた
この作品に、私も今、改めて背中を押してもらったような気持ちになりました。

今ある不安を受け止めてくれるような、前に進む勇気を与えてくれるような、そんな
言葉にあふれた大切な1冊です。心が迷うことがある時に、またきっと手に取りたい
と強く思います。


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【関連書籍】
木皿泉『昨夜のカレー、明日のパン』(河出文庫)




(初出:『かわくらメルマガ』vol.92 木皿泉『昨夜のカレー、明日のパン』待望の文庫化!)