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2015年8月の記事一覧

 服を選ぶ時、全身黒でまとめるとオシャレに見えるのに、全身ピンクだとちょっと
ユニークな人に見えるのはなぜでしょう。どこか常軌を逸したような、違和感を抱く
のでしょうか。

 タヌキ、ウマ、パンダ、カモノハシ、ヒト......われわれを含む哺乳類は、たいてい
茶色か白か黒かのバリエーションしかない、とりわけ地味な存在。ですが、自然界を
俯瞰すると、想像を軽やかに超えるほど、不思議で美しい色をまとった生きものたち
がいます。

 本シリーズ「色の生きもの図鑑」は、赤・白・青・黄色と各巻1色のみで構成した
ビジュアルブック。セルリアンブルーの羽根が見事なモルフォ蝶、生物最強の毒を持
つ、全面真っ黄色のモウドクフキヤガエル、赤×黒×白のしま模様がオシャレなミルク
ヘビ、白玉団子みたいなシロヘラコウモリ......などなど。求愛、威嚇、擬態、警告
と、目的はさまざまで、色の理由が解明されていない生きものもいます。いずれもた
め息が出るほど美しく、あるいは奇妙でオモシロイのですが、僭越ながら1つお勧め
を挙げるなら『赤い生きもの図鑑』に登場する海の珍獣・ズキンアザラシです。

 生息地は北極海や北大西洋。エビやタコ、ニシンなどを食べてのんきに暮らす2
メートル強のアザラシですが、繁殖期になるとメスを手に入れるべく、オス同士の激
しい争いが始まります。勝ち負けのルールは、普段はたるんだ黒い鼻を丸く膨らま
せ、大きい方が勝利。......本当です。しかし両者でその大きさが変わらない場合、鼻
の内側の真っ赤な粘膜を膨らませて外に飛び出させ、赤い鼻ちょうちんで威嚇を始め
るのです。

 そもそもズキンアザラシ(英名:Hooded Seal=頭巾をかぶったアザラシ)の名前
は、鼻の皮膚を膨らませると頭巾のように見えることからつけられました。
 そしてこの赤い風船は、メスに求愛する時にも登場するそう。風船を左右に振ると
「ぽこん、ぽこん」と音がします。......そんなに無理して、鼻血出ないのか心配にな
りますね。
 残念ながらズキンアザラシは日本の動物園・水族館にはまだいません。ご興味があ
れば一度本書を開いてみてください!

 本シリーズ4冊は、いずれも上野動物園元園長の小宮輝之先生の監修で、分布や生
態などのデータを収録、読みものも充実しています。同じ1色で海、山、空の生きも
のまでぐるっと駆け足で眺めると、その多様さに夏の疲れも吹き飛ぶかもしれませ
ん。


編集担当

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【関連書籍】
小宮輝之監修 ネイチャー&サイエンス編『赤い生きもの図鑑

小宮輝之監修 ネイチャー&サイエンス編『白い生きもの図鑑

小宮輝之監修 ネイチャー&サイエンス編『青い生きもの図鑑

小宮輝之監修 ネイチャー&サイエンス編『黄色い生きもの図鑑

※ポスターがこちらよりダウンロードできます。

(初出:『かわくらメルマガ』vol.81 編集担当が語る『キング・オブ・スタイル:衣装が語るマイケル・ジャクソンの世界』)
 今でも多くのファンを惹きつけてやまないマイケル・ジャクソン=MJ。キング・オ
ブ・ポップ、MJに関しては多くの著作があるが、本書はなによりユニークな一冊だ。
サブタイトル「衣装が語るMJの世界」が本書を一言で説明している。
なぜなら......
MJをキング・オブ・ポップたらしめていた3つの要素、それは「ダンス」「ヴィジュ
アル」そして「イメージ」。MJの衣装デザイナーであり、本書の著者マイケル・ブッ
シュとパートナーであるトンプキンスの仕事とは、MJが抱く「自分をどう見せ、表現
するか」という強いこだわりを実現させることだった。 
つまり......
「MJの衣装を知れば、MJが目指した総合芸術と彼の人間性についての理解が深ま
る」。
しかも、衣装を通してMJを読み解く試みは、世界でも本書のみ! 唯一である。
では、ショート・フィルムやDVDの映像でも検証できる、本書エピソードの一部をこ
こに披露しよう!

1>「スムーズ・クリミナル」SFの衣装に隠されていた工夫。
"あの動き"をライヴで実現した装置。
  MJはスピンをするときにネクタイがヘリコプターの羽のようにグルッと回るのが
好きだったが、衣装の白いネクタイが思い通りの動きをせず、撮影を中断した。トン
プキンスのアイディアで、ネクタイの先に25セント硬貨を縫い付けて無事解決し
た。(遠心法、ですね!)

  MJは常に自分を大きく、より高く見せたり、ダンスをする手脚の動きをアピール
したりすることにこだわった。ラインストーン・グローブは最適な小道具だったが、
「スムーズ・クリミナル」のイメージには合わず使えない。そこでブッシュは、指先
に白いテープを巻くことを考えつき、以来、MJの定番となった。
  最大の見せ場ゼロ・グラビティの元ネタは、MJの大好きな映画『オズの魔法使
い』のブリキ男のパフォーマンス。撮影ではワイヤーを使ったが、MJはライヴでの実
現を熱望。トンプキンスが研究を重ねて、リーン・シューズを開発した。MJは特許を
取得したが、実は3人連名で申請してくれていた。

2>「ダーティ・ダイアナ」PVの衣装は、元もとは著者・ブッシュの私服だった!
  撮影当初は黒革のジャケットを着用していたが、強風を使った演出効果が得られ
なかった。ストレスを感じたMJは休憩時間中に、ブッシュが着ていたトンプキンスお
手製の白いシャツに目を留め「そのシャツが僕にウィンクしてるんだけど」。
マイケルのひとことで、その場で衣装チェンジとなった。

3>ハイキックができるリーバイス
  MJが愛用していた黒いリーバイス501。ファンは「MJも僕たちと同じデニムを
はいている」と親近感を抱いたはずだが、MJと同じハイキックはできなかったはず
だ。実は、すべてトンプキンス&ブッシュによる1本数千ドルのカスタム・メイド
で、501を分解し内股の縫い目に伸縮性に優れたスパンデックスが仕込まれていた。

4>1987年の東京公演を契機に、ビリー・ジーン・グローブに大きな変化が! 
  バッド・ツアー東京公演3夜目の終演後にビデオを確認したMJは、グローブのラ
インストーンとマイクがこすれるノイズに気づいた。それまでMJは、左右どちらにグ
ローブをはめるかは当日の気分で決め、手の両面にびっしりとラインストーンを施す
ことにこだわっていた。だが、この一件以来、ライヴの音を優先してグローブをはめ
るのは必ず右手と決め、ステージ用グローブの手のひら側のラインストーンをすべて
はずし、撮影用の全面にストーンを施したグローブと使い分けるようになった。

5>『This is It』の主任デザイナーへの不満ーMJの納棺の衣装担当の依頼
  本書では "主任デザイナー"とされ名前は記されていないが、ザルディ・ゴコのこ
と(レディ・ガガ等の衣装や、シルク・ドゥ・ソレイユ『Michael Jackson: One』の
衣装も手がけている)。サブとなったトンプキンス&ブッシュとしては大いに不満
だったはずだ。「踊りにくい衣装に不満だったMJはThis is Itの衣装をすべてトンプキ
ンス&ブッシュ作に変えようと、密かに画策していた」と書かれているが、真相は不
明。ただし、着付け係となったブッシュがちゃんと現場に立ち会っていたのは事実。
映画『This is It』では、リハーサル会場の隅に立つ姿が映っている。ブッシュについ
ては賛否両論あるところだが、昔気質の仕事ぶりは評価されていたのだろう。ジャク
ソン家が納棺時の衣装=MJの最後の衣装を依頼したのはトンプキンス&ブッシュであった。

***************

他にもまだまだたくさんの秘話、ストーリー、ドラマが盛りだくさんだが、このあた
りでもう、みなさんは読みたくてうずうずしてきたことだろう。
そして、本書はマイケルのファンのみならず、舞台衣装や演出に興味がある読者に
は、興味のつきないものだといえる。つまり「創作すること」、「クリエイティビ
ティについての本」だからだ。より素晴らしいステージを作るにはどうするか。どう
やってMJの世界観を創っていくか――これは、1人の天才と、その天才のために尽く
した「創り手」たちが、衣装を通じて、わたしたちに見せてくれた魔法の数々のドラ
マを記録した本なのだ。

編集担当

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【関連書籍】
マイケル・ブッシュ 小林美幸訳『キング・オブ・スタイル:衣装が語るマイケル・

マイケル・ジャクソン 田中康夫訳『ムーンウォーク』※マイケル・ジャクソン唯一
の自伝!

(初出:『かわくらメルマガ』vol.81 「編集担当が語る『キング・オブ・スタイル:衣装が語るマイケル・ジャクソンの世界』」)
ニーチェ畢生の名著『ツァラトゥストラかく語りき』の新訳を河出文庫で刊行しまし
た。訳者は2008年に大著『夜戦と永遠』によって衝撃的なデビューを飾り、20
10年『切りとれ あの祈る手を』で多くの読者を感動でゆるがした佐々木中さんで
す。
佐々木さんは思想界の若きリーダーの位置にとどまることなく、その後は小説家とし
ても余人の及ばない境地を切り開く一方、その思想的な成果を4冊の「アナレクタ」
シリーズや『仝』(河出文庫)としてまとめるなど絶えず新たな試みに挑み続けてき
ました。
その佐々木さんが小説などのかたわらで数年をかけて密かにすすめてきたさらなる挑
戦、それが『ツァラトゥストラ』の新訳です。生田長江がはじめて訳して以来、
『ツァラトゥストラ』は多くのすぐれた文学者によって訳され、その時代の若者たち
に途轍もない影響を与え続けてきました。いまも氷上英廣の岩波文庫、手塚富雄の中
公文庫、吉沢伝三郎のちくま学芸文庫、竹山道雄の新潮文庫などが入手可能ですし、
そのどれもが名訳として愛されつづけてきました。
ここでいま佐々木さんがなぜ新訳を出す必要があったのか。これは実際に書店で実物
を手にとってみていただけばひと目でわかるはずです。汲めども尽きないニーチェの
限りなく深い思考を限りなく詩的によみがえらせるためにはこの訳者しかいない、と
私たちは確信していましたが、それはこの本の一行一行によって証明されました。
時代が危うくなるためにニーチェは甦ってきました。その意味でいまニーチェが読ま
れなければならないのは確かだとしても、この数年のニーチェブームは本当にニー
チェに迫っているといえるのか。この新訳はそれへの回答でもあります。
ニーチェ以降の思想家でニーチェの影響を受けていない人はいませんし、ニーチェな
ど関係のない思想家がいるとしたら、その人の思想が読むに値するか疑ってしかるべ
きでしょう。ニーチェ以降の思想、ハイデガーからドゥルーズ。デリダなどにいたる
現代思想はニーチェ、そしてとりわけ『ツァラトゥストラ』の注解の歴史だったと
いっても過言ではないのですが、しかしこの本を読むために、そのような知識は必要
ではありません。
もし全編を読み通すのが難しければ、ときおりページをめくって何行かを読んでみて
ください。それだけでも途方もない歓びと困惑があなたをつつむことでしょう。
ニーチェは『この人を見よ』という自伝で「この本で私は人類への最大の贈り物をし
た」と書きました。人類はまだこの贈り物を受け取りきってはいないのです。今回の
新訳はそのための一歩となるでしょう。

編集担当

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【関連書籍】

フリードリヒ・ニーチェ 佐々木中訳『ツァラトゥストラかく語りき』(河出文庫)


(初出:『かわくらメルマガ』vol.80 星野智幸『呪文』刊行前読書会、開催!)