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2013年7月の記事一覧

河出文庫の名物企画、毎回豪華執筆陣による新作SFをお届けしてきたアンソ
ロジー・シリーズ、《書き下ろし日本SFコレクション NOVA》が最新刊
NOVA10』で第1期完結となりました。
全10巻は、日本SFのオリジナル・アンソロジーとしては空前の最長記録で
す。
完結記念の『NOVA10』は全648ページ(巻末には全巻作品リストつき)、
通常の約1.5倍という大幅増ページ!
今号は《NOVA》第1期完結にあわせて、かつて一部で評判(顰蹙?)となっ
た「花びら」事件の顛末について、《NOVA》担当編集がお届けいたしま
す。

◎大森望責任編集『NOVA10
円城塔、瀬名秀明 ほか 著/大森望 編 ●1,260円

◎過去の《NOVA》シリーズ

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◎《NOVA》シリーズのほろ苦い思い出
編集部 伊藤靖
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 河出文庫の大森望責任編集《書き下ろし日本SFコレクション NOVA》
シリーズは、2009年12月に『NOVA1』が刊行され、この7月の
NOVA10』でに10冊目となります。

 掲載された新作SFは100編を超え、参加作家は60人を超えました。
 最初は1冊だけの予定だった企画がここまで大きく育ったのは、参加作家の
みなさまと本シリーズをお買い求めくださった読者のみなさまのお陰です。こ
ころより御礼申し上げます。
 ひとまずここで「第1期完結」といたしますが、来年くらいからまた新たな
形で再スタートしようと思っております。
「第1期」とはなんだ?などとどうか深くお考えにならぬよう。

 もちろん《NOVA》は、責任編集者である大森望さん抜きには成り立ちま
せん。大森さん、本当にどうもありがとうございました。ひきつづき小社で刊
行予定の翻訳小説にとりかかってくださいますようお願い申し上げます。
 著名人名義による名前ばかりの「責任編集」の本や雑誌もありますが、
《NOVA》は作家のみなさまへの原稿依頼から受領、ときにダメ出しまで、
大切なところはすべて大森さんが一人で行なっております。
 ツイッターで大森さんをフォローされているかたは、「大森さんはしょっちゅう文
学賞のパーティーに出席してるなあ」などとお思いかもしれませんが、大森さんはあ
らゆる機会を利用して、作家さんに《NOVA》の原稿執筆をお願いしたり、「メッタ斬
り!」のネタを仕込まれたりとフル回転されているのです。

 では出版社の《NOVA》編集担当は何をしているのだ?とまっとうな疑問
をもたれるかもしれませんが、ほとんどなんにもしてません。収録作のお原稿
を(主に)メールで頂戴しては、「やあ、おもしろいなあ」と読み、校正ゲラ
に組んで本の形にするだけです。
 ただ、ひとつ悩みがありました。
《NOVA》では目次と各作品扉に作品の内容紹介を入れているのですが、こ
れを書くのは大森さんではなくて編集担当の分担です。
 編集者としていかがなものかと思いながらも、わたしは文章を書くことがは
なはだ苦手でして、《NOVA》に収録される1冊10編前後の内容紹介文も難
儀しました。作品の魅力をうまくコンパクトにまとめられたら、と思いながら
も、なかなか。
 さらさらっとセンスでこさえられたらいいのですが、わたしの場合は理詰め
で文章をこさえます。
 その一例をお話しします。

 じつは最初の『NOVA1』だけは、大森さんが書いた紹介文が存在しまし
た。SFファンの集いで大森さんが「こんど、こんな書き下ろしアンソロジー
が出ますよ」というお話をした際に、会に来た方々への配布資料用として書か
れたものです。そのままではちょっと長めでしたので、それをたたき台にして
目次・作品扉用に仕立てあげました。

 大森さんによる、斉藤直子さん「ゴルコンダ」の紹介文はこんな感じでし
た。

「先輩と結婚した梓さんは、とても美人で気立てもいい。でもひとつだけ、ふ
つうじゃないところがあったのです」

 主人公の「僕」が先輩の新築の家に行くと、先輩の美人な奥さん(=梓さん)が出迎え
てくれるのですが、キラキラと笑顔のまぶしい奥さんが家のあっちからこっちから現
れて(みんなおんなじ顔かたち!)、いつのまにやら総計28人に増殖していた......というと
てもチャーミングな短編です。
 内容紹介としては、奥さんが28人に増えていた点をぜひとも盛り込みたい
ところです。もしこの点が作品のオチとして使われていたなら、さすがに書け
ませんが、全26ページの作品の6ページ目に「28人」とはっきりあります。
紹介文で書いてしまっても差し支えないはず。
 ではなぜ、大森さんは「でもひとつだけ、ふつうじゃないところがあったの
です」とぼやかして書いたのか?

『奥さまは魔女』のオープニングナレーションのパロディが書きたかった、な
んてはずはありません。あきらかに、読む前の読者には「美人な奥さんが28
人」というSF的衝撃を隠しておきたい、という責任編集者の意志が読みとれ
ます。
 でもここはやはり「奥さんがいっぱい」というこのお話特有のおかしみをぜ
ひ盛り込みたい。いわば「書かずに書く」ことはできないだろうか? 禅問答
のようです。
 困ったときにはゲラを読め。帯コピーや内容紹介を書くときの掟です。答え
は必ずゲラの中に。
 ゲラをめくりかえすと、「書かずに書く」答えがやはりありました。28人
と明記せずに奥さんがいっぱいいるニュアンスを読者に伝えるフレーズが。
 これが見つかれば、あとは小説中のそのフレーズや前後の文章を切り取って
きて、独立した一文として成り立つように切り貼りして、ちょいちょいと整え
るだけです。
 理詰めの作業とは、こんな塩梅です。

 無事に『NOVA1』の見本が出来上がった当日、大森さんより電話をいただ
きました。「きょうは日本ファンタジーノベル大賞の授賞式で、《NOVA》
にお願いしたい人たちもいっぱい来るから、伊藤くんも見本を10冊ほど持っ
て会場に来るように」
 会場では、斉藤直子さんともお会いできました。斉藤さんは日本ファンタジ
ーノベル大賞の過去の優秀賞受賞者です。お目にかかったのはこのときが初め
てだったのですが、作品同様にチャーミングなかたでした。
 このたびはどうもありがとうございました、と御礼とともに見本をお渡しす
ると、斉藤さんは、自分の名前がはいった本が出るのは久しぶりだから親戚や
職場のみんなに配ってまわります!と「ゴルコンダ」の奥さんのようにキラキ
ラとおっしゃいました。
 後日、ツイッターで次のような大森さん(@nzm)のツイートを目にしまし
た。

@nzm NOVA1のamazonのカタログ、内容紹介に目次のデータを全部入れて
もらった(略)各編の紹介コピーは伊藤靖氏の担当です。斉藤直子「ゴルコン
ダ」 の紹介は、「先輩の奥さん、めちゃめちゃ美人さんだし、こんな状況な
ら憧れの花びら大回転ですよ」

@nzm 斉藤直子さんはこれがファンタジーノベル大賞優秀賞受賞(から10年
ぶりの)第一作。「親戚や職場で配ります」と張り切っていたが、「憧れの花
びら大回転」を見たとたん、「ああ! これじゃ配れない! こんな本、他人
に見せられない! そんな小説じゃないのに......」と泣いてましたw

 印象的なフレーズを作品からそのまま引っ張ってきただけなのですが、どう
も何かが間違っていたようです。理詰めでつくる文章はときに大切なことをこ
ぼれ落としてしまいます。
 ほろ苦い思いとともに《NOVA》はスタートすることとなりました。

 この8月より、《NOVA》に収録された作品を中心として、〈NOVAコレ
クション〉という単行本シリーズを刊行開始いたします。
 第1弾は東浩紀さんの『クリュセの魚』、
第2弾は谷甲州さんの宇宙土木SFもの(タイトル未定、9月刊行)です。斉
藤直子さんのチャーミングな短編集もぜひ刊行させていただきたく思っており
ます。
 どうぞ今後の展開にご期待下さい。


【執筆陣】(順不同)
伊藤計劃、円城塔、北野勇作、小林泰三、斉藤直子、田中哲弥、田中啓文、飛
浩隆、藤田雅矢、牧野修、山本弘、東浩紀、恩田陸、神林長平、倉田タカシ、
小路幸也、新城カズマ、曽根圭介、田辺青蛙、津原泰水、西崎憲、法月綸太
郎、宮部みゆき、浅暮三文、小川一水、瀬名秀明、谷甲州、とり・みき、長谷
敏司、森岡浩之、京極夏彦、最果タヒ、竹本健治、林譲治、森深紅、森田季
節、山田正紀、伊坂幸太郎、石持浅海、上田早夕里、須賀しのぶ、図子慧、友
成純一、宮内悠介、牧野修、蘇部健一、樺山三英、松崎有理、高山羽根子、船
戸一人、七佳弁京、扇智史、片瀬二郎、壁井ユカコ、藤田雅矢、増田俊也、青
山智樹、粕谷知世、友成純一、松尾由美、眉村卓、浅暮三文、森深紅、木本雅
彦、谷甲州、扇智史、片瀬二郎、木本雅彦、柴崎友香、菅浩江、伴名練、森奈
津子、山野浩一

【編者プロフィール】
大森望(おおもり・のぞみ)
1961年、高知県生まれ。京都大学文学部アメリカ文学科卒。翻訳家。書評
家。訳書にウィリス『ブラックアウト』、ディック『ザップ・ガン』他。著書
に『新編 SF翻訳講座』『21世紀SF1000』他。

(初出:『かわくらメルマガ』vol.19 古川日出男 × 後藤正文 トーク&ライブセッションご招待)

第129回芥川賞候補となったいとうせいこうさんの16年ぶりの小説「想像ラジオ」。

おかげさまで3月の発売以来、いえ、作品が発表された「文藝」春号の1月7日の発売以来、本当に多くの反響がありました。

今日は3月11日に配信された、担当編集者による制作秘話を公開します。


◎『想像ラジオ』いとうせいこう ●1470円

http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309021720/

↓特設サイト(いとうさんからのメッセージや作品の立ち読み、いとうさんと星野智幸さんの対談が読めます)

http://www.kawade.co.jp/souzouradio/


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◎『想像ラジオ』が生まれるまで

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 こんにちは。あるいはこんばんは。もしくはおはようございます。

『想像ラジオ』編集担当者です。


 1月7日に発売された「文藝」春号に掲載され、ありがたいことにかつてない反響を呼んだ、いとうせいこうさんの16年ぶりの小説『想像ラジオ』が、ついに単行本で発売されました。いとうさんの特集号となっているこの「文藝」は通常の3倍近くの売れ行きをみせ、あっという間に品切に(ごめんなさい!)。ツイッターでは発売前から1000件以上のコメントが寄せられ、おかげさまで発売前に重版が決定するというあまり類をみない事態になりました。

 この小説は......、すみません、編集担当なのにこんなことを申し上げるのも恐縮ながら、もう全力で「読んでください」の一言しか、お伝えできる言葉がありません。もしくは本屋さんで最初の1ページだけでも読んでみてください、としか。

 でも、これだけでは何の本かさっぱりわかりませんよね......。なので、せめて、ここではこの本ができるまでの経緯を通じて、少しでもこの作品の片鱗、私が見てきたいとうさんの思いを勝手にお伝えできればと思ってます。しばしお付き合いください。

(そうそう、ちなみに特設サイトでも立ち読みができますのぜひ)

http://kawade.co.jp/souzouradio/