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村田沙耶香『消滅世界』が発売!

朝日・読売新聞など、各文芸時評で雑誌掲載とともに大きな話題となった村田沙耶香
さんの最高傑作『消滅世界』がいよいよ刊行されます。

先日、河出クラブにて、発売より一足早く、村田さんを囲んで読書会を催しました。
本になる前に、読者の方から感想や質問を直接いただくのは、もちろん作家にとって
も初めての経験。批評とはまた違って、読み手と作品が真っ向からぶつかりあった感
想に、大いに刺激を受けました。みなさんありがとうございました。

さて村田沙耶香さんが「書きたかったことを全て入れた」とその折にも話していた
『消滅世界』は、第二次世界大戦をきっかけに、人工授精が飛躍的に発達した、もう
一つの現代日本(パラレルワールド)を描いています。

人工授精がセックスに代わり、快楽と生殖が分離した世界ーそこでは人々は、結婚後
も変わらず恋人をつくりキャラに恋をし、一方で"家族"からはセックスが徹底的に排
除され、夫婦間のセックスは"近親相姦"と見なされています。
《セックスが消えてゆく世界......》

そんな世界で、主人公・雨音は、父と母の〈交尾〉で生まれたことを、幼い頃、母か
ら知らされます。

「雨音ちゃんも、いつか好きな人と愛し合って、結婚して、子供を産むのよ。お父さ
んとお母さんみたいに」。

母親に繰り返し呪いのような言葉を聞かされて育った雨音は、自分の発情は正常であ
ることを確認したい衝動から、恋人やキャラを求め続けます。恋をしたら身体を繋げ
ずにはいられない雨音に、セックスは過去の遺物と思っていた恋人たちは、次々と彼
女から離れていきます。

やがて婚活パーティーで朔と知り合った雨音は、彼と結婚します。夫とは清潔で無菌
な家庭を築き、外では恋人とデートを重ねる人並みの生活に、自分の正常さ・正しさ
を証明したかに見えた雨音。

しかし夫の朔は、彼の恋人とのトラブルをきっかけに、「千葉にある実験都市・楽園
(エデン)へ移り住むことを雨音に提案します。「恋のない世界へ、二人で逃げよ
う」と。
《恋愛も消えてゆく世界......》

実験都市では家族(ファミリー)システムではない、世界初の新たな繁殖システムが
導入され、選ばれた住民は男女を問わず、12月24日に一斉に人工授精を受けることに
なっていました。男性も人工子宮によって妊娠の可能性が試みられていたのです。
《家族も消えてゆく世界......》

実験都市・楽園(エデン)で、はたして雨音が目にしたものとは !?

セックス、恋愛、家族......本能に根ざした揺るぎないはずのものが、次々に消えてい
く世界。そう、もしかしたらこの『消滅世界』は、"日本の未来"であるとともに、私
たちが知らないだけで、既に"日本の今"なのかもしれないのです。村田沙耶香さんが
予見する、恐るべき世界のリアルを、ぜひ皆さんの目で確かめてください。

(担当編集T)
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村田沙耶香『消滅世界


(初出:『かわくらメルマガ』vol.90 村田沙耶香『消滅世界』が発売!)