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編集担当者が語る、『この世界が消えたあとの 科学文明のつくりかた』

先日、弊社のtwitterアカウントで、『この世界が消えたあとの 科学文明のつくりか
』の発売ツイートをしたところ、大きな反響がありました。


また本日HONZにて、とても素敵なレビューを書いていただきました!

荒廃した世界が舞台となっている映画「マッドマックス 怒りのデスロード」も公開
となったこの最高のタイミングで、編集担当者による書籍紹介をぜひお読みくださ
い!

*   *   *   *   *   *  

「明日、文明が崩壊したら、あなたはどう生き残るのか?――究極の思考実験」

机に向かってキーボードで文字を打ち込んでいると、突如画面が動かなくなり、「あ
あ、パソコンなんて世の中になければいいのに!」と思ったことは、誰にでもあるの
ではないでしょうか? では、強毒性のインフルエンザの大流行によって人類が壊滅
しかけ、パソコンどころか、身の回りのあらゆる文明の利器が、ほとんど失われてし
まったとしたら?

このような状況を設定し、どうしたら人類の文明をゼロから作り出せるのか思考実験
してみるのが『この世界が消えたあとの 科学文明のつくりかた』です。

パソコンはもちろんのこと、机の上にあるエンピツでさえも、どうすれば一から作れ
るのか、説明できる人はほとんどいないと思います。身の回りのさまざまな製品や
サービスは、身近であたりまえの存在でありながら、あまりに専門化され、たとえ基
本的で単純に見えるものでも、それらの仕組みや成り立ちは、多くの人にとってブ
ラックボックスになってしまっていることに、改めて驚かされます。

人類の大半が死滅する「大破局」が発生した直後には、まずは避難場所や水、食糧、
燃料を探し出す必要があります。リサイクルや再利用できるものもたくさん残されて
いるはずです。本書によれば、もし一人の生存者がスーパーマーケットを丸ごと独り
占めできるとしたら、55年間は生き延びられるだけの食糧があるそうです(缶詰の
ペットフードを食べれば、63年間は大丈夫とのこと!)。

でも、そんな状況も長くは続かず、生き残った人類は食べ物を得るために農業を始め
なければなりません。現代の農業は100年前にくらべて同じ面積の土地から2倍から4
倍もの食糧を生産しています。それは除草剤や農薬、人工肥料などを、化石燃料を
使って合成することから可能となっており、ある意味現代の農業は石油を食糧に変え
るプロセスとも言えるのだそうです。そして、ハーバー・ボッシュ法によって合成ア
ンモニアが大量に生成され、そこから製造される肥料が世界の人口の3分の1を支えて
います。つまり、体内のタンパク質の半分ほどは人工的に固定された窒素からできて
おり、私たちはなかば産業的に製造されているのです。パソコンやスマホのようなハ
イテク機器のみならず、こうした目に見えにくいところまでも、人間社会のほとんど
が高度に産業化されているとは、驚きです。

農業がうまくいったら、保存のために食糧を塩漬けや薫製にし、酵母の力を借りてパ
ンやビールをつくり、糸を紡ぎ機織りをして衣服をつくり、健康を維持するために石
鹸や医薬品を製造する必要があります。すぐに救急車を呼べる社会でなければ、自分
たちで手術もしなければなりませんが、それには消毒薬や麻酔薬が必要です。また、
建築のためには鉄などの金属を製錬し、レンガをつくる粘土や、石灰モルタルもつく
らなければなりません。ガラスは窓だけでなく、顕微鏡や望遠鏡の作成にも不可欠で
すが、ガラスの製造には炭酸ナトリウムが欠かせず、ソルベー法を学ぶ必要がありま
す。

そして、これらの過程にはさまざまな動力が必要となるので、水力や風力、電気の力
も使わなければなりません。得られたエネルギーをさまざまな用途に用いるために
は、カムやクランク、蒸気機関、内燃機関といったものについても知る必要がありま
す。紙やインク、ペンなど、日々当たり前のように使っているものも、なくなってし
まえばその重要性に改めて気づかされるはずです(そう、紙の本の印刷にも、人類が
蓄積してきたさまざまな創意工夫が詰め込まれています)。さらには鉱石ラジオや写
真術などの仕組み、科学技術の発展に欠かせないメートル法や、気圧計、温度計など
の計測器具、暦、日時計や機械式時計、長距離を旅するための造船や緯度や経度、六
分儀などについても解説されます。

本書は「大破局後」の人類が、どうすればいち早く効率的に文明を再建することがで
きるのかを示した本であるとともに、このように、現代社会はありとあらゆる科学技
術が複雑にからみあってできていることを示した本でもあるのです。本書を読めば、
日々の生活がいかに科学技術によって支えられており、その科学技術はどのように実
践され、ときには偶然による発見によって、あるいはたゆまぬ創意工夫によって発展
してきたのか、理解できるはずです。そして、「訳者あとがき」にもあるように、明
治維新以降、西洋の科学技術の習得に邁進し、わずか数十年で「一足飛び」に産業化
を果たした日本人にとっては、明治以来の国の歩みを振り返る機会となるかもしれま
せん。

ゲラを読みながら感じたのは、このように身の回りのものごとがどのように成り立っ
ているのか、学校の授業で教えてくれれば、化学や物理が大の苦手だった私にとって
も、科学がぐっと身近なものとなり、楽しいものとなっただろうなということ。現在
の当たり前の生活が、長い年月の末に築かれた人類の偉大な英知の上になりたってい
ることの、ロマンを感じていただければ幸いです。

著者はイギリスの若手の研究者で、サイエンス・ライティングで数々の賞を受賞して
います。本書はイギリス、アメリカ、ドイツ、フランス、イタリア、オランダ、スペ
イン、ロシア、ルーマニア、クロアチア、トルコ、日本、韓国、中国、台湾の世界15
カ国で刊行・刊行予定です。

著者のウェブサイト(英語):http://lewisdartnell.com/

著者のグーグルでの講演の様子:https://www.youtube.com/watch?v=rbbvf-GkJcA

本書の受賞歴
●The Sunday Times 'New Thinking' Book of the Year 2014
●The Times Science Book of the Year 2014
●Kobo Best Non-Fiction 2014
●New Scientist Great Popular Science Books for Christmas 2014

(編集担当)
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【好評発売中!】
ルイス・ダートネル 東郷えりか訳

(初出:『かわくらメルマガ』vol.77 編集担当者が語る、『この世界が消えたあとの 科学文明のつくりかた』)