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第5回 東京/書原 霞が関店

東京・霞が関といえば中央省庁やその関連施設が多く、どちらかというとお堅い感じ
の街である。
しかし驚くなかれ、このような場所に我々本好きをワクワクさせる書店さんがある。
書原 霞が関店のことだ。

一見間口の感じだと、それほど広くなさそうに見えるが実はそうではなく、奥行きが
あり、何よりも本の匂いにあふれ、規則性があるかと思えばそうでもなく、乱雑そう
に見えて、実は計算されつくした所も見え、とにかく一日居ても飽きない、本のディ
ズニーランドと言っても良いくらい楽しい場所なのである。

私はPOPなどの拡材と呼ばれる宣伝用の厚紙を駆使して売り場を作っているお店もも
ちろん好きなのだが、ここにはそれがない。いやないのではなく、それぞれの本がそ
の役割も演じているのである。
例えば、水木しげるの本の隣には井上円了の『妖怪学講義』があったり、澁澤のごっ
つい幻想文学の隣にはエルンストやパニッツア全集があったり、『月と六ペンス』の
隣には地球の歩き方シリーズ『タヒチ』があったりと、その陳列がPOP以上に目をひ
くのである。よくぞこんな本見つけてきたなあと思うものもたくさんある。もうそう
なると時間も何も関係なくなり、博物館を巡っているような幸せな気分になれるので
ある。

あとすごいのは文庫棚。そもそも岩波や河出、ちくま、講談社文芸文庫など、
一癖も二癖もあるラインナップが続くが、注目したいのはその配置。一番奥の
趣味の棚の近くにそれらの文庫があるものだから、店頭からの陳列と蔵書の妙に
頭が洗脳されてきてしまい、文庫棚に到達した時の期待感がハンパないのである。
もう表情は緩みっぱなし。密かにニヤけてしまうのだ。棚什器もあたたかみのある
木材を使っていて、かすかに感じる湿度が心地いい。ふと気がつくと文庫を両手で
愛でている自分がいるのである。

もう幸福感いっぱいで何冊か買うべき本を携えながら、レジに行く。
そこでまた衝撃が走る。なんとレジ前に人文思想のコーナーである。
通常、レジ前と言えば衝動買いしやすい手軽な文庫やベストセラーが置かれる場所。
「なんでやねん」とツッコミを入れながらもフーコーを手にとってしばらく躊躇する
のだが、もう心は夢心地。感謝の念で買ってしまうのである。それはスーパーでお会
計をする際にレジ横のお菓子をついついカゴに入れてしまう感覚に似ている。

ある調査によると国民の53%が1ヶ月に1冊くらいしか本を読まないらしい。
ただ今日紹介した書原さんのような本屋さんもある。普段本を読まない人でも、まず
は書店さんの中に入り、店頭にあるたくさんの本の中から一冊を選ぶという楽しみを
味わえば、もう少し国民読書量は違ってくると思う。本屋さんはこんなにも楽しい場
所なのだから。

(営業部・田丸慶)

◎書原 霞が関店
東京都千代田区霞ヶ関3-2-3
霞が関コモンゲート官庁棟アネックス1階
電話:03-3595-8045
http://www.geocities.jp/books_shogen/tenpo.html

(初出:『かわくらメルマガ』vol.53 2014/8/25)