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2014年12月の記事一覧

河出の2014年

◎『帰ってきたヒトラー 上下』ティムール・ヴェルメシュ著/森内薫 訳

『帰ってきたヒトラー』はヒトラーが、死んだことを忘れて現代ドイツに甦り人気芸
人になっていく、というトンデモ小説です。でも冷静に読むと彼は生前(前世?)と
同じ顔で、同じ主義で、同じ行動をしている。もし、本当にいまヒトラーが現れた
ら、私たち、このリーダーシップに熱狂してしまうかも......と、巧みな構造にぞっと
させられます。
このドイツでのセンセーショナル具合を、日本でも再現したい。そのため、特にタイ
トルは確定までいろんな意見が集まり、難航しました。原題は『Er ist wieder da』、
直訳すると「彼はまたここにきた」。怖い! 「名前を呼んではいけないあの人」み
たい! タブー感がよく表れている。直訳でもいいのでは?という案もありました
が、日本で「彼」と言っても「ヒトラー」は指さないよね? と却下。「歴史書みた
い」という意見で『私はヒトラー ただいま芸人売り出し中!』というオチを半分
言っちゃうタイトルに決まりかけたり激しく迷走しました。
河出での結論は、もったいぶらずに『帰ってきたヒトラー』。この本は大部分がコメ
ディだけど、コメディゆえに怖い、という構造。ヒトラーが帰ってくるって超怖いよ
ね、と、怖さに忠実に、ほぼ直訳方向に落ち着きました。原題と比べると名前を出す
なんて下世話かもしれませんが、宣伝の天才、ヒトラーのシルエットと名前は大変な
インパクトだったようで、発売1週間で重版決定、現在までに上下巻とも6刷と、最
近の翻訳小説では異例の人気作品になってくれました。(営業担当より)
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◎村岡花子『たんぽぽの目』『腹心の友たちへ』など

 2014年の好きなテレビドラマ第1位「花子とアン」。わがままな作家・宇田川満代
先生が村岡花子を「みみずの女王」と呼ぶ場面をご記憶の方も多いと思います。『た
んぽぽの目』収録の「みみずの女王」を実際に花子が発表したのは70年ほど前。鴻
巣友季子さんは「一見愛らしい童話のようで、とんでもなくブラックなお話」と語っ
ています。
 花子の孫・美枝さん、恵理さんは「祖母の童話は古めかしいのでは」と気にかけな
がらセレクトに取り組みました。しかし心配は無用で、作品は高水準、なによりも日
本語が美しく丁寧、花子の人柄が伝わるものでした。
「小学2年生の孫が読書感想文を書きました」「5歳の娘に読み聞かせています」
等、年代を問わず多くの方からコメントが寄せられています。
『ぐりとぐら』の作者中川李枝子さんは子供の頃に、花子の童話を何度も繰り返し読
んだといいます。「あたたかな口調には無駄がなく、歯切れよく、物語が絵になって
見えます。ありきたりのお子様向け童話とは違うぞーと私は確信しました」ちなみに
中川さんは「くしゃみの久吉」が格別にお好きだったとか。プレゼントに最適。ぜひ
お手にとっていただければと思います。
 また、「花子とアン」には登場しなかった心あたたまるエピソードが詰まったエッ
セイ集『腹心の友たちへ』『曲り角のその先に』『想像の翼にのって』も。エッセイ
集にはこんな誕生秘話もあります。ドラマ放映中、書斎を整理していた孫の恵理さん
が見つけたのは、花子の手で「未発表エッセイ」と書かれた茶封筒。中にはびっしり
原稿が詰まっていました。この多くは『想像の翼にのって』に収録されています。
(編集担当より)
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◎『ペンギンが教えてくれた物理のはなし』渡辺佑基(河出ブックス)

第68回毎日出版文化賞・自然科学部門を受賞、11月27日に授賞式が行われました。
編集担当者(私)にとっても関わった本が受賞するのは人生初。受賞スピーチで渡辺
さんが「一番嬉しいのは賞金ゲットです!」と冗談をかますも場内の静粛ぶりに肝を
冷やし、式後パーティーでは渡辺さんの前にできた他社の編集者の列(「2冊目はう
ちで」と!)におののき、師事される先生には「研究者と編集者の関係は、つかず、
はなれずでね!」と心得をお教え頂き(研究者は研究・論文執筆が当然ながらご本
業)、「受賞」を巡るあれこれ、大変勉強になりました。
著者のデビュー作、編集者も科学分野は新米ゆえ、まさに手探りの本作りでしたが、
制約なく研究の面白さをのびのびと書いて頂いた1冊です。研究者の日常が綴られた
渡辺佑基さんのブログ、宜しければご覧下さい。興味深いです!(編集担当より)
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◎『型なしタルト』渡辺麻紀

型がないと作れない「タルト」が、型を使わなくても作れる!
そんなカジュアルさがこの本の一番の魅力です。きっちり作り込まなくても、見ばえ
のいいものが1台ドン!と仕上がる。完成したときのテンション、切り分けるときのワ
クワク感がたまりません。
ですが、それ以上に...担当編集は著者・渡辺麻紀さんの食材の組み合わせ方にほれ込
んでおり、そこがこの本の魅力だと思っています。
撮影後に試食したときは勿論ですが、著者からメニュー案が届いたときの高揚感は言
い表せません。
味を想像して悶え、期待に胸をふるわせます。「え!小豆と抹茶とマーマレード...お
いしそう~(うっとり)」「ドライいちじくにブルーチーズ!ささささらに、ビーツ
とくるみ、はちみつまで?!盛り沢山!」「なすとひき肉(ふんふん...頷く)に、
ヨーグルトですって?!」...興奮冷めやらぬまま撮影に突入し、その熱量をとじ込め
た本になりました。手軽さと食の奥深さを両方楽しめる一冊を、どうぞご堪能くださ
い。(編集担当より)
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◎『イチョウ』ピーター・クレイン著/矢野真千子 訳

朝日、読売、毎日、日経の4紙制覇の効果もあって、3780円(税込)という高定価に
もかかわらず、よく売れています。あちこちで目にするわりには意外に知られていな
かった「生きた化石」と数々の試練に耐えて強靭に生き抜いてきた強さが、凝縮して
まとめられた各紙書評は、きっと新聞読者に精神的な何かを伝えたのだと思います。
悠久の時間に思いを馳せ、西洋より日本のほうが先に広がっただけでなく、鎖国時代
の長崎出島からヨーロッパに伝わったというおまけの話も、じつに夢があって、日本
人とイチョウの特別な関係に驚いたりもします。科学であって文化でもある本書の魅
力でしょう。(編集担当より)
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今秋、神奈川近代文学館で催された「須賀敦子の世界展」には、1万人をはるかに超え
る方々が入館され、大盛況のうちに終わりました。思い出ぶかい須賀さんの写真やお
http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309253022/手紙、なつかしい書斎の風景の再現など、胸がいっぱいになった素晴らしい展覧会で
した。亡くなられた直後に涙にくれながら作った文藝別冊の追悼特集『須賀敦子 霧の
むこうに』から早や16年。今回新編集の文藝別冊『須賀敦子ふたたび』、文庫新刊2
冊は、きっと須賀さんの新たなファンを広げてくれることと思います。(編集担当よ
り)

※刊行中の「池澤夏樹=個人編集 日本文学全集」にも、須賀敦子さんの作品が収録さ
れます。
こちらもお楽しみに!
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◎『最後のトリック』深水黎一郎(河出文庫)

発売から3ヶ月で15万部と売行き絶好調の深水黎一郎さん著『最後のトリック』。
表紙のデザインは多数のベストセラーを手掛ける鈴木成一さんによるものですが、実
はオビは広報課で作成しました。「読者全員が」の文字を広報課Nが、「犯人」という
文字を広報課Tが書き、最終的な文字の配置をその上司である広報課長がしたのです。
この本の面白さを直接伝える為に試行錯誤した結果、不慣れな手書きオビに挑戦した
わけですが、微妙な筆跡の違いをぜひ見比べてもらえますと嬉しいです。この本が出
る経緯については、瀧井朝世さんが書いてくださった、朝日新聞「売れてる本」の記
事もぜひお読みください。(営業担当より)
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◎『古事記』池澤夏樹訳(池澤夏樹=個人編集 日本文学全集)

校正者としては、とてもたいへんな仕事でした。脚註・固有名詞など、気を配らなけ
ればならない点がとても多い。とくに神様の名前の表記原則は難関で、連日見ている
うちに、夢の中で神様たちが輪舞するまでになりました。
と、思い返せばいろいろありましたが、様々な方々に助けていただき、なんとか形に
なりました。作業者としてはたいへんだったことも、読みやすいという評価をいただ
くのに一役買っているようで、すこし報われたような気持ちです。
まだまだ先は長く、傍註の入る巻もあります。校正者としての悩みは尽きませんが、
今後とも「日本文学全集」をごひいきに、見守って、楽しんでいただけますと幸甚で
す。(校正担当より)
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田中康夫さんの小説『33年後のなんとなく、クリスタル』が売れています!1980年
発表のミリオンセラー『なんとなく、クリスタル』から、その後の33年間を書いた作
品です。発売が決まったとき、文藝賞出身の小説家、田中康夫さんの新作を、ついに
売れる!と、ふるえました。
まず、「なんクリが書かれた1980年って、どういう時代?」というフリーペーパーを
作成、配布しました。日本文学史上の事件である「なんクリ」が世に出た時代背景
を、今、あらためてフォーカスしました。また、田中さんのゴージャスな車に乗せて
いただき、発売前に31軒の書店を訪問し、文芸担当者にプレゼンを行いました。「一
番いい場所で売る!」「大きなポスターが欲しい!」など言ってくださる方がたくさ
んいて、手応えを得ました。
11月25日の発売から1ヶ月。これからまだまだ売り伸ばします!年末年始、ぜひ書店
に出かけて、見つけてください。ターコイズに箔押しの、きれいなカバーが目印で
す。(営業担当より)
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◎『なんでもまる見え大図鑑』ジャクリーン・ミットン著/左巻健男 日本語版監修

先日、茨城県にあるアカデミア イーアスつくば店にて店頭販売に行って来ました!
12月20日の土曜日ということもあって販売ブースはこの図鑑を見たいというお客さん
でいっぱいでした。
この図鑑の対象学年は小学校高学年からですが、4歳~6歳の子に特に興味を持って
買っていただいたことにビックリ。12ページからはじまる宇宙の各項(つくば、だから
でしょうか)、恐竜のページに釘付けでお母さんが「他の本も見よう」と言っても聞き
ません。目をキラキラさせて図鑑を読む姿をみて、「日本の将来は安心だ」と思いま
した。(笑)
お母さん方に申し上げたいこの図鑑のいいところは圧倒的な情報量と今までどこもで
きなかった「なかみ」をCGで明らかにしたことです。少々文字も多く、難しくお感じ
になるかもしれません。ただ子供さんは日々成長します。文字がまだ全部読めなくて
もまずはヴィジュアルを楽しむこと。それでいいんです。それで興味がわいてだんだ
んと読めるようになります。この図鑑1冊あれば、中学校まで楽しめます。そんなな
が~く使える図鑑です。それで4600円はゼッタイお買い得。その子にとって永遠の1
冊になるはずです。(営業担当より)

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ちなみに今年は次のような賞も頂きました。

◎『想像ラジオ』いとうせいこう
紀伊國屋書店スタッフが全力でおすすめするベスト30『キノベス!2014』第1位

◎『動きすぎてはいけない』千葉雅也
紀伊國屋じんぶん大賞2013

◎『マヤコフスキー事件』小笠原豊樹
第65回読売文学賞の評論・伝記賞

◎『スタッキング可能』松田青子
第4回 Twitter文学賞 国内篇 第1位

◎『国境 完全版』黒川創
第25回伊藤整文学賞

◎「五色の舟」津原泰水(河出文庫『11eleven』収録)
「SFマガジン」700号記念号の「オールタイム・ベストSF」で「五色の舟」が「国内
短篇部門」第1位

◎『NOVA 書き下ろし日本SFコレクション』全10巻 大森望責任編集
第34回SF大賞特別賞
第45回星雲賞自由部門

「星を創る者たち」谷甲州(NOVAコレクション『星を創る者たち』所収)
第45回星雲賞日本短編部門

◎『ペンギンが教えてくれた物理のはなし』渡辺佑基(河出ブックス)
第68回毎日出版文化賞自然科学部門
http://mainichi.jp/shimen/news/20141103ddm001040216000c.html

(初出:『かわくらメルマガ』vol.62 河出の2014年号)

1980年に刊行した田中康夫さんのデビュー作『なんとなく、クリスタル』。
文藝賞受賞直後から大きな話題を呼び、ミリオンセラーとなりました。
いま50代になった"彼女たち"を描く『33年後のなんとなく、クリスタル
が発売になりました。こちらも発売即3刷となり、文庫新装版『なんとなく、
クリスタル』とともに大きな話題となっています。
読者の皆様には発売早々の品切れでたいへんご迷惑おかけしました。お詫び申
し上げます。

本書は著者17年ぶりとなる極上の長篇小説と438の軽妙な『註』で日本社
会の"これまで、いま、これから"を描いています。"もとクリ"(*)では、
この国が最も豊かだった1980年に、日本社会はすでに"午後"であり、や
がてくる"黄昏"を見通していた田中康夫氏。33年を経て彼はいま、ニッポ
ンの未来に何を見るのか?
(*もとクリ:もとの『なんとなく、クリスタル』の略語で、ロバート・キャ
ンベルさんによる造語です。)

今回はそんな田中康夫氏に素朴な質問をぶつけてみました。お楽しみください。

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Q 主人公の由利は実在の人物で、名前まで本名だと『文藝』に連載された
『33年後のなんとなく、クリスタル』で初めて知り、ビックリしました。本当
ですか?

A 小説はフィクション。でも、フィクション=嘘とは限りません。「なんク
リ」=「もとクリ」の出版から33年、ヤスオまで登場する今回の「いまクリ」
は虚々実々の展開。成熟した大人の世界を、どうぞお楽しみ下さい。

Q 33年が経過した"なんクリ世代"の女性たちは、とても元気であると同時
に、知的で社会意識も強いことに驚かされます。田中さんにとっての彼女たち
とは?

A "豊かな時代"を生きたが故に、何も考えていない、と言われがちです。
でも、それって本当かな、と思いませんか? 実は、しなやかに、まっとうに
生きる、人間の体温を持った人たちだと、読み進むうちに感じ取って下さると
嬉しいですね。

Q 「なんクリ」のラストで、主人公由利は"十年後"の未来へのかすかな不
安を語っています。なぜ、日本が右肩上がりだったあの時代に、すでに"黄昏"
へ向かっているという"未来像"を描かれたのですか?

A "黄昏"とは、決して暗い未来ではありません。光が薄らいで目に見えに
くいからこそ、私たちは五感を働かせて進むのです。「微力だけど無力じゃな
い」のが私たちなんだと、由利も信じてますから。

Q 今度の作品にも"註"は入るのですか?

A はい。「もとクリ」とも違った趣向のたくさんの註が、横書きで単行本に
は入ります。ご期待下さい。

Q 「なんクリ」は風俗小説ではなく、教養小説なのかなと思えてきました。
田中さんご自身はどうお考えですか?

A 「文藝賞」選考委員だった故・野間宏さんは、「あなたは社会的な物語を
書きなさい」と毎年の年賀状に記して下さいました。その言葉に励まされて、
これまで歩んできたのかも知れませんね。

(初出:『かわくらメルマガ』vol.61 「池澤夏樹=個人編集 日本文学全集」刊行開始記念イベントレポート)