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1980年に刊行した田中康夫さんのデビュー作『なんとなく、クリスタル』。
文藝賞受賞直後から大きな話題を呼び、ミリオンセラーとなりました。
いま50代になった"彼女たち"を描く『33年後のなんとなく、クリスタル
が発売になりました。こちらも発売即3刷となり、文庫新装版『なんとなく、
クリスタル』とともに大きな話題となっています。
読者の皆様には発売早々の品切れでたいへんご迷惑おかけしました。お詫び申
し上げます。

本書は著者17年ぶりとなる極上の長篇小説と438の軽妙な『註』で日本社
会の"これまで、いま、これから"を描いています。"もとクリ"(*)では、
この国が最も豊かだった1980年に、日本社会はすでに"午後"であり、や
がてくる"黄昏"を見通していた田中康夫氏。33年を経て彼はいま、ニッポ
ンの未来に何を見るのか?
(*もとクリ:もとの『なんとなく、クリスタル』の略語で、ロバート・キャ
ンベルさんによる造語です。)

今回はそんな田中康夫氏に素朴な質問をぶつけてみました。お楽しみください。

*  *  *  *  *  *  *  *  *  *

Q 主人公の由利は実在の人物で、名前まで本名だと『文藝』に連載された
『33年後のなんとなく、クリスタル』で初めて知り、ビックリしました。本当
ですか?

A 小説はフィクション。でも、フィクション=嘘とは限りません。「なんク
リ」=「もとクリ」の出版から33年、ヤスオまで登場する今回の「いまクリ」
は虚々実々の展開。成熟した大人の世界を、どうぞお楽しみ下さい。

Q 33年が経過した"なんクリ世代"の女性たちは、とても元気であると同時
に、知的で社会意識も強いことに驚かされます。田中さんにとっての彼女たち
とは?

A "豊かな時代"を生きたが故に、何も考えていない、と言われがちです。
でも、それって本当かな、と思いませんか? 実は、しなやかに、まっとうに
生きる、人間の体温を持った人たちだと、読み進むうちに感じ取って下さると
嬉しいですね。

Q 「なんクリ」のラストで、主人公由利は"十年後"の未来へのかすかな不
安を語っています。なぜ、日本が右肩上がりだったあの時代に、すでに"黄昏"
へ向かっているという"未来像"を描かれたのですか?

A "黄昏"とは、決して暗い未来ではありません。光が薄らいで目に見えに
くいからこそ、私たちは五感を働かせて進むのです。「微力だけど無力じゃな
い」のが私たちなんだと、由利も信じてますから。

Q 今度の作品にも"註"は入るのですか?

A はい。「もとクリ」とも違った趣向のたくさんの註が、横書きで単行本に
は入ります。ご期待下さい。

Q 「なんクリ」は風俗小説ではなく、教養小説なのかなと思えてきました。
田中さんご自身はどうお考えですか?

A 「文藝賞」選考委員だった故・野間宏さんは、「あなたは社会的な物語を
書きなさい」と毎年の年賀状に記して下さいました。その言葉に励まされて、
これまで歩んできたのかも知れませんね。

(初出:『かわくらメルマガ』vol.61 「池澤夏樹=個人編集 日本文学全集」刊行開始記念イベントレポート)