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『盗まれた遺書』刊行記念特別エッセイ寄稿!

仙田学『盗まれた遺書』について、意外なかたからコメントをいただきました。

 これは仙田学の最初の小説集である。デビュー十二年目にして、五篇の中短篇がよ
うやく単行本というかたちにまとめられ、多くの読者に届けられることとなった。
「授賞パーティーで会いたくない」
「帰国子女か、極端に友達が少ないか」
「性別不明」
 「中国の拷問」が受賞することとなった、第十九回早稲田文学新人賞の選考座談会
では、作品についてだけではなく作者の人物像についても、議論は紛糾した。
 蒸発と女装が趣味であると公言してはばからない作者は、女装姿で「早稲田文学」
誌の表紙を飾ったこともある。とことん掴みどころのないエキセントリックな作者、
というようなイメージを抜きに読み進めていったとしても、掴みどころのなさは縮減
されるどころか、むしろ増大していくだろう。
 そもそもタイトルが『盗まれた遺書』である。もしもこれが『遺書』だったなら、
太宰治が『晩年』について「考える葦」で書いているように、「これは私の最初の小
説集なのです。もう、これが、私の唯一の遺著になるだろうと思いましたから、題
も、『遺書』として置いたのです」などと作者はうそぶき、鬼面人を驚かすこともで
きただろう。ところがこの遺書はすでに盗まれている。ここにはないということだ。
「作者の盗まれた遺書のようなものですこの小説は」などという比喩が成り立たない
ように、この小説を構成する言葉の消失点として特定の作者を想定することはじっさ
い難しい。そんな小説である。
 といって、まるで自分のことが書かれている、というように読むことはさらに難し
い。「肉の恋」の肉にハマる少女、「乳に渇く」のおっぱいを飼育する男、「ストリ
チア」の蛸人間......いずれもこのうえなく感情移入しづらい人物が続出する。
 「私」から抜け出し、誰かにもなりきれないまま、消失点を欠いた風景のなかをい
つ果てるともなくさまよい続けなければならない。それは私が過去の小説に教えられ
てきた読書経験そのものである。
「もう、これで、しつれいいたします。私はいま、とっても面白い小説を書きかけて
いるので、なかば上の空で、対談していました。おゆるし下さい」
                                仙田学

映画監督の中島良さんが、『盗まれた遺書』のPVを作ってくださいました。すばら
しい映像です!!

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★『盗まれた遺書』仙田学●1600円

■著者プロフィール
仙田 学 (センダ マナブ)
1975年生まれ。京都府出身。2002年「中国の拷問」で第19回早稲田文学新人賞を受
賞しデビュー。
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