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2013年9月の記事一覧

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◎東浩紀『クリュセの魚』(NOVAコレクション) ●1680円
少女は孤独に未来を夢見た......亡国の民・日本人の末裔のふたりは出会い、人
類第2の故郷・火星の運命が変わる。壮大な物語世界が立ち上がる、渾身の恋
愛小説。三島由紀夫賞受賞第1作。
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 東浩紀さんの長編『クリュセの魚』が、SF叢書《NOVAコレクション》の
第1弾として発売になりました。
 東さんは1993年に評論家としてデビューされて以来、幅広い活躍をされて
きましたが、2008年に桜坂洋さんとの共著で初の小説『キャラクターズ
を、2009年には初の単独長編『クォンタム・ファミリーズ(QF)』を刊行。
(いまはいずれも河出文庫で読むことができます)

『QF』をSFとして高く評価された書評家・翻訳家の大森望さんは、御自身が
責任編集をされている書き下ろしアンソロジーシリーズ《NOVA》(河出文
庫)へ東さんに短編を依頼し、火星SF「クリュセの魚」が《NOVA2》に掲
載。

その後も《NOVA》に断続的に連載されることになります。

 本稿では東さんのツイッターでのつぶやきから、『クリュセの魚』刊行まで
の経緯を探ってみたく思います。
(なお引用ツイートは文章を一部カットした箇所もあります)

【2009年年末、東さんの単独小説第1作『QF』の刊行が目前の時期に、第2
作(のちの『クリュセの魚』)への言及があります】

東浩紀:つぎは火星SFに挑戦しようと思っている。――と平野氏との対談で
語ったが、あそこはカットされるかもしれんな。長い対談だったし。
2009年11月06日 12:09

東:本当は火星SFを書きたい。そしてSF以外の小説なんて読みたくない。リ
アルとかまじどうでもいい、とか思っている。タグなしでこっそりとw
2009年12月07日 7:54

東:ちなみに第2作は、大森望氏編集の『NOVA2』収録の短編になる予定で
す。
2009年12月10日 21:22

東:キャラクターズ>ファミリーズと来たのだから、次の火星SFのタイトル
もやはり英語複数形で行きたいところだ。なんだろう、やっぱり「プラネッ
ツ」かな?
2009年12月16日 13:19

東:ところで火星SF書き始めてみた。
東:風景描写でいきなり躓いた。テラフォーミング途中の火星の熱帯付近の日
中気温って何度なんだよ!とかw
2009年12月29日 15:15-15:16

【青山ブックセンター六本木店で、『クォンタム・ファミリーズ』刊行記念の
東浩紀×大森望トークショーが2009年1月13日に行なわれました。その翌朝
に↓】

東:それにしても昨夜は火星SFについて、新潮、早川、東京創元、河出各社
編集者を前に、えらくいろいろアイデアを語ってしまった気がする。ずいぶん
とハードルをあげてしまった。本当にあんな目論見が成功するのだろうか。
2010年1月14日 21:32

【イベント打ち上げの席上で東さんが語った火星SFの構想によると(うろ覚
えですが)、主人公(語りの中心人物)や掲載誌まで複数に使い分けながら連
作短編を発表していき、最終的には全体で長大な年代記が完成するというもの
でした(《NOVA》掲載時の第2話、第3話が彰人の一人称ではなく三人称で
書かれていたのはその名残でしょうか)。書き進められるうちに彰人の物語が
深まってゆき、まずは『クリュセの魚』として1冊にまとまったのだと思われ
ます。麻理沙や栖花の物語もかなり作り込まれていたようで、いつかそれらが
物語られる日が来るかもしれません】

【『NOVA2』の刊行が迫りながらも火星SFはなかなか脱稿せず、編集長の大
森望さんにも焦りが見え始めた頃に↓】

東:火星SF終了。
大森望:待てば海路の日和あり。あずまん『NOVA2』原稿ついに到着! こ
れから読む。わくわく。
東:感想が怖いのでぼくは寝ます......(涙
東:短編連作の第1話のつもりで書いたのですが、終わってみれば長編の序章
みたいになってました。
大森:読みました。火星SFとしては長編の冒頭という印象が強いけど、リリ
カルかつビターなボーイ・ミーツ・ガールものとしては完結してるのでOKで
す。ツカミはばっちり。
2010年4月24日 4:48-5:40

【この段階でもまだタイトルが決まりません】

大森:じゃ、題名は「火星のプリンセス・リローデッド」で(違)
大森:ナデシコの英語タイトルMartian Successor Nadesicoにあやかっ
て、「火星を継ぐもの」というのはどうか(違)
東:「火星を継ぐもの」「火星のプリンセス・リローデッド」というタイトル
大森望案は、冗談とはいえ本質をついている。さすが大森さん......
2010年4月24日 5:42-10:49

大森:東浩紀の火星SFタイトルは「クリュセの魚」でどうか。あんまりリリ
カルじゃないか。
2010年4月24日 18:01

東:一晩寝かしてみましたが、「クリュセの魚」はけっこういいのではないか
と思います。ありがとうございます。暫定タイトルはこれで。
大森:了解。シリーズ・タイトル入れる手もありますね。「マーシャン・クロ
ニクルズ」とかそういうの。
東:検討中ですが「クリュセの魚」はかなりいいので、むしろこれをシリーズ
タイトルにしたいくらいです。
2010年4月25日 11:03-20:55

【そう、タイトルは大森編集長の命名でした】

【5月18日、第23回三島由紀夫賞の選考会が開かれ、『QF』が受賞作に決ま
りました。文学賞記者会見の実況ツイートといえば、もちろん大森さんです
↓】

大森:東浩紀は7時40分ごろ会場入りして受賞者会見に。作品に関する質問
はほとんどなく、批評と小説の関係に集中。「評論はスポーツのようなもの。
若い人に任せて、ぼくは小説を書きたい。と思っているがなかなかそうも行か
ない状況」
大森:東浩紀、会見で次回作を問われて、ちゃんと『NOVA2』の宣伝をし
てくれました。河出文庫から7月4日配本予定の『NOVA2』には、東浩紀
の三島由紀夫賞受賞後第一作となる火星SF中編「クリュセの魚」が掲載され
ます。乞うご期待。
2010年5月18日 20:16-20:22

東:火星SFは河出文庫NOVAシリーズでの連作展開が決まりました。まず来
月頭に第1章「クリュセの魚」が『NOVA2』で世に出ます。乞うご期待。今
回は私小説性とかメタフィクション性とか批評性とか、飛び道具一切なく素朴
に小説を書いていますので、これで行けるかどうかが試金石だと思います。
2010年6月17日 11:34

【「クリュセの魚」掲載の書き下ろしアンソロジー『NOVA2』の見本出来】

東:ちなみに「クリュセの魚」はあまりに恥ずかしくて、見本がもらってもま
ったく読み返していない。自分の小説が目に入るのが怖いから『NOVA2』自
体開けない。神林さんと法月さんの、読みたいのに......
2010年7月03日 17:22

【意外に思われる方もいるかもしれませんが、東さんは「作家としては自分は
新人」というお気持ちを強く抱かれています。作家・東浩紀はとてもシャイな
んです】

【ひきつづき『NOVA3』に「クリュセの魚」続編が掲載されることになりま
すが、今回もタイトルがなかなか決まりません】

東:大森さんから「火星のプリンセス」というタイトルはどうだ、SFファン
に叩かれるかも知れないがその場合の責任は大森にあるということでひとつ、
とかいうメールが来る。――責任って、叩かれるのオレじゃん!!!
大森:「悪い人にだまされたんです」と泣き崩れろ。
2010年10月04日 23:13-23:17

【第2話の題名はけっきょく「火星のプリンセス」となりましたが、やはり東
さんはこの題がお気に召さなかったのでしょうか、単行本からは「火星のプリ
ンセス」は消えてしまいます。なお基本的に、単行本の「プロローグ」「第一
部 クリュセの魚」は連載版の第1話に、「第二部 オールトの天使」「エピ
ローグ」は第2話~第4話に相当します】

【第3話「火星のプリンセス 続」は『NOVA5』に掲載予定で進みながら、
脱稿が遅れます】

東:それにしても、火星のプリンセス後半がどうもうまく進まん......
大森:他の原稿はすでに著者校まで終わってますよ! ていうか『NOVA6』
の原稿も半分以上入っている状態。
東:参ったなあ......
大森:参ってる場合か!と。
2011年5月24日 14:10-21:18

東:大下さなえ(現*ほしおさなえ)「北限のサワロ」は単行本化していない
がけっこう良い小説なのだ。「崖におかれて」「北限のサワロ」と崖シリーズ
になっている。つぎは火星だと思ったので、ぼくは火星SFの最初の場面をエ
リシウム高原の崖にした。
2011年11月21日 22:04

【第4話・シリーズ完結編「オールトの天使」の脱稿も遅れます】

大森:残るは東浩紀 『クリュセの魚』完結編のみ。
東:えー......
大森:今度落としたらSF作家生命はないと。
東:えー......
大森:「火星のプリンセス」ブームに載っていきたい!!東浩紀版「火星のプリ
ンセス」、キャッチコピーは、「デジャー・ソリスを超えるニュー・ヒロイン
誕生!」だな(服は着てます)。
2012年3月15日 16:32-16:39

【バローズの名作『火星のプリンセス』を原作にした映画『ジョン・カータ
ー』の日本公開が迫っていた時期です。なお「火星のプリンセス」ブームは来
なかったみたいです】

【連載は完結し、東さんは単行本化へ向けての改稿作業に入ります。連載版と
単行本版とは、ほぼ同一の物語ですが、文章が大幅に改稿されました。段落単
位でいえばまったく同一の文章はないくらい徹底的です】

東:クリュセの魚、単行本化改稿作業ようやく終わり、編集者さんに原稿を送
りました。「NOVA」連載の火星を舞台にしたSF小説。テーマ的にはQFの続
編、というかリメイクという感じもします。原稿用紙300枚ほどで、河出書房
新社より刊行予定です。長編小説第2弾です。よろしくお願いいたします。
2013年3月09日 1:51

東:クリュセの魚のゲラ、なんでこんなにたいへんなのだ。
東:うーむ、おれはなんでこんなに小説が下手なのだ。。(クリュセの魚ゲラ
作業中)
2013年6月27日 00:29-2:42

【作家・東浩紀は謙虚なんです。ところで多くの作家さんがツイッターをされ
てますが、これ、編集者にとってはちょっとした目安になります。ある作家さ
んの場合は、ピタリとつぶやかれなくなると、原稿執筆が快調に進んでいる証
拠です。東さんの場合も、つぶやき回数と原稿執筆とのあいだには有意義な相
関関係が見いだせます。ただし、つぶやき回数が多いほど、執筆が快調な証拠
となるのです。信じられます? 東さんの同時並行処理能力は尋常ではありま
せん。締切の近い編集者にとっては、夜中にじゃんじゃか東さんのツイートが
流れてくると、「おお、作業が猛烈に進んでいらっしゃる!」と実感できま
す】

【校正作業も終え、8月下旬に刊行されることが確定となります】

大森:『クリュセの魚』の発売記念トークイベントをゲンロンカフェでやりま
せんか?
東:えええ ちょっと恥ずかしい。。w
大森:よもや東浩紀の口からそんな言葉がwww
東:やります。
大森:演題「火星とわたし」とかw
東:そいつはアツすぎますね。。
2013年7月25日 21:13-21:20

【作家・東浩紀はシャイなんです】

東:ゲンロンカフェで自作の話をするのは公開自慰みたいでほんと恥ずかしい
のだけど。。w → [大森望のSF喫茶#1] 東浩紀『クリュセの魚』刊行記
念インタビュー「火星のプリンセスは日本沈没の夢を見るか?」東浩紀×大森
2013年8月16日 13:46

【という次第で、単行本『クリュセの魚』は刊行され、東さんがオーナーのイ
ベントスペース付きカフェ「ゲンロンカフェ」で、8月28日に刊行記念イベン
トが開かれました。ところでイベント名が「火星のプリンセスは日本沈没の夢
を見るか?」だったのはなぜか? 『日本沈没』の著者・小松左京氏による名
作『果しなき流れの果に』がヒントです。21世紀半ば、大地震と地殻変動に
よって日本列島はほぼ海中に沈み、祖国を失った日本人は月や火星に閉鎖的な
コロニーを作り、さらに人類初の「恒星移民団」として遠い宇宙の彼方に旅立
とうとする......というエピソードが『果しなき~』に出てきます。つまり『果
しなき~』は『日本沈没』の未来の物語であり、『クリュセの魚』で描かれた
日本人の末裔は、東浩紀版『日本沈没』第2部なのではないか......?(ただ
し、『クリュセ』では日本列島は沈んでいません)】

東:クリュセの魚は第一部が好きなひとと第二部が好きなひとに分かれるよう
だ。第二部が好きなひとがいてよかった。そっちのほうが少し自信なかったも
ので。。
2013年8月31日 14:31

東:クリュセの魚は予想外に好評だ。よかったよかった。正直、出るまえはこ
れどうしようかとか思っていたのだけどw
2013年9月01日 14:27

【作家・東浩紀はシャイですが、読者の皆様のお声こそが、次回作への原動力
です。皆様、ぜひ今後ともあたたかい応援をお願いいたします】

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◎東浩紀『クリュセの魚』(NOVAコレクション) ●1680円

【著者プロフィール】
東浩紀(あずま・ひろき)
1971年生まれ。作家、批評家。ゲンロン代表取締役。『存在論的、郵便的』
でサントリー学芸賞、長編『クォンタム・ファミリーズ』で三島賞を受賞。著
書に『動物化するポストモダン』『一般意志2.0』他多数。

◎「東浩紀アーカイブス」河出文庫より好評発売中。
東浩紀アーカイブス1『郵便的不安たちβ

◎東浩紀さん編集の小松左京傑作選、こちらもぜひ。

◎NOVAコレクション、刊行開始しました!
第2弾は9月26日発売、谷甲州さんの新刊です。
谷甲州『星を創る者たち』(NOVAコレクション) ●1785円

事故はつねに起こる。最悪の危機を回避するのは、彼ら宇宙を拓く現場の者た
ち......待望の宇宙土木SFシリーズ、驚愕の書き下ろし最終エピソードを加
え、25年の時を経てついに完成。

月の地下交通トンネル、火星の与圧ドーム、水星の射出軌条、木星の浮遊工
場......太陽系の開発現場で前例のない事故が起こるとき、現場の技術者たちは
知恵と勇気で立ち向かう。驚愕の太陽系創造神話、誕生。

1988年に「コペルニクス隧道」他の3編が発表されながら掲載誌の休刊もあ
り長らく凍結されていた連作短編シリーズが、2010年、大森望責任編集のア
ンソロジーシリーズ『書き下ろし日本SFコレクション NOVA』で再開。

「思わず感涙にむせぶ人も多いだろう。谷甲州の宇宙土木SFシリーズ、奇跡
の復活である」(シリーズ最新作に寄せられた大森望解題より。『NOVA3』
掲載)。

そして第1話発表より四半世紀を経て、大幅改稿とともに驚愕の書き下ろし最
終話を得て、ついにその壮大な物語が全貌を現す。
「作者が予測できなかったくらいだから、読者諸賢にとってはなおのこと予想
外の物語になったと確信している」――谷甲州

【収録作品(全7話)】
「コペルニクス隧道」「極冠コンビナート」「熱極基準点」(初出『小説奇想
天外』、大幅改稿)、「メデューサ複合体」「灼熱のヴィーナス」「ダマスカ
ス第三工区」(初出『NOVA』)、「星を創る者たち」(書き下ろし)

◎伊坂幸太郎さん、宮部みゆきさん、柴崎友香さんらのSFも読める、大森望
さん責任編集の書き下ろし日本SFコレクション、〈NOVA〉シリーズ1~10
もぜひ。

(初出:『かわくらメルマガ』vol.24 編集担当者が語る、『クリュセの魚』と作家・東浩紀の秘密)