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「14歳から読める戦後日本史入門を、こう書いた」 成田龍一

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◎「14歳から読める戦後日本史入門を、こう書いた」
成田龍一
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劇作家で小説家の井上ひさしさんに、「むずかしいことをやさしく」というこ
とばがあります。井上さんは、つづけて「やさしいことをふかく、ふかいこと
をおもしろく」といいます。井上作品は、小説でも戯曲でも筋が入り組み、ど
んでん返しが多くとても複雑なのですが、主題をとてもわかりやすく訴えかけ
てきます。複雑であっても、わかりやすくおもしろい――その秘密は、作者の
この姿勢にあります。「むずかしいことをやさしく」述べることからはじま
り、「おもしろく」伝えていく工夫のたまものです。

じつは、歴史もとても複雑です。とくに戦後日本史は、あれこれの要素が絡み
合い、とてもかんたんには説明できないことがほとんどです。しばしば、歴史
家は、正確さと精密さを尊重して、複雑なことを複雑なままに記します。
しかし、厳密さを追求するあまり、込み入った説明をすることは、歴史の描き
方としては素朴に過ぎるように思います。ことがらを複雑に説明する歴史家が
多いため、逆に断定調に単純化して言い切る歴史がはやってしまうのですね。
もちろん、私は、歴史を単純化せよといっているのではありません。私は、複
雑な戦後日本史を、単純化するのではないやり方で、複雑さを伝えるやり方を
求めてきました。

そうした試みのひとつとして、14歳の人びとから読めることをねらいとした
本をつくってみました。若いひとを読者対象に加える、ということは、結果的
に、年長者にもよりわかりやすく伝わるということとなるであろう、とも思い
ます。
読者対象の拡大は、たんに表現レベルの問題ではなく、問いの立て方やことが
らの提出のしかたなど、戦後日本史の認識そのものにかかわってきます。「む
ずかしいこと」というのは、しばしば本質的なことですが、そのことがなぜ本
質的なことであるのかを、ていねいに解きほぐす営みが求められることになり
ます。その課題に、今回は挑戦してみました。
同時に、この営みは、いまひとつの結果として、戦後日本史を体験から離陸さ
せて、歴史として描くという試みともなりました。自らの世代の経験を、いか
に歴史のなかに位置づけていくかということです。自明としていたこと、あた
りまえのように考えていたことを、あらためて説明しなおす営みであり、私に
とっては、大きな挑戦となりました。

こうして、読者対象を14歳から、と広げることは「むずかしいことをやさし
く」語ることの実践にほかなりません。さまざまに、いままでの私の歴史認識
と歴史の描き方を再検討する機会となりました。

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戦後の歩みをわかりやすくたどりながら、しかしそれだけでなく、常に「歴史
とは何か?」という本質的な問いを読者と考えていく、はじめての歴史入門と
しても、大人の学び直しの友としても絶好の一冊に仕上がっています。ぜひ手
にとってみてください。

【著者プロフィール】
成田龍一(なりた・りゅういち)
1951年、大阪市生まれ。日本女子大学人間社会学部教授(近現代日本史)。
『近現代日本史と歴史学』『「戦争経験」の戦後史』『大正デモクラシー』
『〈歴史〉はいかに語られるか』など。

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(14歳の世渡り術)●1260円
占領、55年体制、高度経済成長、バブル、沖縄や在日コリアンから見た戦
後、そして今――これだけは知っておきたい重要ポイントを熱血レクチャー。
これからを生きる人のための新しい歴史入門。
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(初出:『かわくらメルマガ』vol.26 成田龍一さん特別寄稿 「14歳から読める戦後日本史入門を、こう書いた」)