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編集担当が語る、野口日出子『いま伝えたい和食』

<野口日出子先生のこと>

「アジがおろせればクジラだっておろせます!」は野口先生の口ぐせ。あ、あの・・
クジラは哺乳類では、などと細かいことはいわないで。アジで魚の基本構造をしっか
り覚えれば、どんな魚にも応用できますよ、と先生はおっしゃるのです。

ある日の先生宅。私たち編集スタッフは料理教室がはじまる直前におじゃましまし
た。玄関には築地から届いた大きな発泡スチロールがいくつも積んであります。ふた
を開くと巨大なマダラが! おなかがものすごく膨れています。「鱈腹(たらふく)
の語源がわかるでしょ。ほらほら、皮に触って。深海魚だからぬめっとしてるわね。
とっても傷みやすいから気をつけて」切り身のタラしか見たことのない私たちはこの
巨大魚に大興奮。おなかに触ってみたり、でっかい口を開けてみたり。

次の箱から出てきたのは、ひえっ、このながい口ばしはなに? 1メートル以上は
あろうかというヤガラです。しかも、からだ3分の1くらいは口。「口が開くのは
先っぽの数センチだけなのよ」ほんとだ! そして、先生が敬愛される魚類学者、阿
部宗明氏編纂の魚類図鑑を開いて、お魚講座がはじまります。水族館より断然おもし
ろい!!

しかし、このでかい魚たちを、生徒のみなさん、さばくんですか?「もちろん。私の
生徒はハモもアンコウもきれいにさばきますよ」すごい・・としか言えない私たちで
した。

「まずは調理する素材をよく知ること」と先生はいつもおっしゃいます。「たとえば
魚だったら、その構造や生態などがわかれば、その魚がいちばんおいしい季節がわか
り、その魚にふさわしい調理法も理解することができます。野菜やお肉でも同じこ
と。そうやって覚えた知識は応用がきくし、決して忘れません。理由を知ることがお
料理ではとてもだいじ」

いつも探究心と好奇心に満ち、疑問に思ったらすぐに確かめる、それも、書物だけに
頼らず、現場に行って自分の五感で確かめる、これが若いころから今に至るまでの先
生の基本姿勢。築地「おさかな普及センター」の名誉館長もされていた阿部宗明氏に
ついて市場を歩き回ったり、阿部氏といっしょに漁場の見学をしたり。そうして得ら
れた食材情報は、私たちにとって目からウロコのものばかりです。

本書にはレシピに加えて、この貴重な食材情報をたくさん盛り込みました。そして、
先生の至言も随所に! 先生の言葉は、料理に役立つことはもちろん、人生の指針に
したいような名言です。(帯ウラにも先生語録を載せましたのでぜひお読みくださ
い!)

赤が大好きな先生。1年以上に及ぶ撮影中、ただの一度もグチをおっしゃることがな
かった先生。愛弟子の阿川佐和子氏曰く「笑いながら怒る」先生。100歳の弟子に
83歳の先生という奇跡のような教室が、末永くつづきますように。そして、長年の
教室の集大成である本書が、末永く読み継がれますように。                    
(編集担当)

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野口日出子『いま伝えたい和食

(初出:『かわくらメルマガ』vol.97 かわくらセミナー「〈日本〉を考える」第3回 講師:大澤真幸 募集開始!)